年々、厳しくなる日本の夏の暑さ。今や「災害級」とも言われる酷暑の中、都市化によるヒートアイランド現象などの影響もあり、室内にいても熱中症になってしまう人が急増しています。もはやこれまでの常識では通用しない暑さから命を守るために、本当に正しい対策を知っておく必要があります。そこで今回は、脱水症・熱中症の専門家である谷口英喜さんに、「正しい水分補給の新常識」について詳しくお話を伺いました。
2025年は熱中症による救急搬送が初めて10万人を突破
消防庁発表のデータによると昨年の2025年は、熱中症で救急搬送された人の数が記録開始の2008年以降、初めて10万人を超えました。

出典:消防庁「令和7年(5~9月)の熱中症による緊急搬送状況」
このグラフを見ると、過去3年連続で9万人超えの熱中症が発生しているのがわかります。
さらに、このデータを詳しく紐解いていくと、興味深いのが熱中症の「発生場所」です。熱中症というと、日差しのあたる屋外で発生するイメージがありますが、もっとも多かったのが「住居」で約4割に及び、室内での熱中症がかなり増えていることがわかります。

出典:消防庁「令和7年(5~9月)の熱中症による緊急搬送状況」
熱中症になると、どんな症状が出る?

そもそも、熱中症とはどんな症状なのかを把握しておきましょう。
人は、気温が上がると、汗をかいて自ら体を冷やして体温をコントロールしています。ところが、体内の水分が不足して体温コントロール機能が破綻すると、体内に熱がこもり、体温が急上昇します。これが、熱中症です。
熱中症になると、つねに水分を必要とする脳、消化器(胃・腸)、筋肉を契機に次のような症状が現れます。
◆脳→頭痛、立ちくらみ、めまい、
◆消化器→食欲低下、腹痛、便秘・下痢
◆筋肉→筋肉の痙攣、痛み、足がつる
「熱中症」一歩手前の「脱水症」にも要注意!
熱中症以外にも、夏に留意したい症状として「脱水症状(症)」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。脱水症と熱中症は大きく「体の中で起きているトラブル」が異なります。
「脱水症」は体内の水や電解質がカラカラに不足した状態。対して「熱中症」は、その脱水のせいで汗がかけなくなり、体温コントロール機能がパンクして熱がこもった状態を指します。
さらに気をつけたいのが「かくれ脱水」。体内の水や塩分が減少しているにもかかわらず、明確な自覚症状がなく、脱水症の一歩手前にいる状態です。水分補給をせずに放置すると、あっという間に先に述べた体の異常があらわれてきます。
脱水症を見分けるポイントは、採血、体組成計など、いろいろありますが、その場で誰でも見つけられる方法がフィジカルアセスメント(体を触ったり、よく見たりする方法)です。
以下、代表的なフィジカルアセスメントを紹介します。

◆手を握る→手が冷たかったら脱水症を疑おう。
◆手の甲をつまみあげる(ツルゴール反応)→跡が3秒を超えて消えないなら危険信号。
◆爪を押して、離す(爪毛細血管再充満時間)→元のピンク色に戻る時間が3秒を超えたら危険信号。
◆おでこと脇の下を観察→特に高齢者は脇の下が乾きがちなので要注意。
◆舌を見てみる→表面が乾燥してカサカサ、でこぼこ、亀裂が生じていたら危険信号。
ひとたび脱水症になったら、経口補水液を飲むなど、通常の水分補給以外の対策を講じる必要があります。
年齢を重ねるほど、体は脱水状態になりやすい

上のイラストを見てください。これは年代別の人間の体内の水分量を示したものです。体内の水分量は生まれたばかりの赤ちゃんでは体重の約80%、20~60歳の成人では約60%ですが、65歳以上の高齢者は加齢とともに筋肉量が減るため、体内に蓄えられる水分そのものが少なくなり、約50%まで減少します。
さらに、年齢を重ねると、のどの渇きを感じる機能が低下するため、「のどが渇いた」と思ったときにはすでに体内の水分が不足しているなど、脱水状態になるリスクは高まるので要注意です。
高齢者の中には「トイレが近くなるのが心配だから」と水分を控える人も少なくありません。ところが、ただでさえ体内の水分量が減っている状態なので、むしろ積極的に水分を摂取していかないといけません。
特に60歳を過ぎたらのどの渇きを目安にするのではなく、時間を決めて水を飲む習慣をつけることが大切です。
毎日の水分補給は「6オンス8回法」が基本

では、普段の水分補給では、どんな水の取り方がよいのでしょうか?水分補給で大切なのは、摂取した水分ができるだけ体内に維持されることです。
そこでおすすめしたいのが、「6オンス(180 ml)8回法」です。
飲み物から補給したい水分量の1日の目安は、日本人の成人で約1400~1500 mL。この水分の総量をコップ1杯(180 ml)×8回に分けて摂取すると、体が常に潤った状態を保つことができます。
その摂取例を図にまとめると、こうなります。

「のどが渇いたら飲む」という感覚に頼らず、1日8回のタイミングを意識的に決めて、「薬を飲むように水分補給する」ことが重要です。
「食事で水分をとり、足りない分を飲水で補う」が大原則

さて、これまで飲料から摂取する水分補給について説明してきましたが、もうひとつ、大切なのが「食事からの水分摂取」です。
日常生活のなかで、食事からの水分摂取を意識する人はそう多くないかもしれませんが、食事には多くの水分が含まれています。
食事に含まれる水分の含有量をまとめると、次のようになります。

出典:『いのちを守る飲水学:からだがよろこぶ水分補給のトリセツ』(評言社)
食事から水分をとる主なメリットは以下の通りです。
◆食事をとるだけで意識せずに水分補給できる。
◆ゆっくり体内に水分が吸収されるので尿意をもよおしにくい。
◆食事からとった水分は体に保持しやすい。
つまり、「食事で水分をとり、足りない分を飲水で補う」というのが水分補給の大原則なのです。
寝ている間も脱水リスクあり!夜トイレに起きなくて済む飲み方は?

最後に、「夜トイレに起きるのが嫌なので、寝る前は水分を控えている」という方へアドバイスを。
寝ている間にも汗や呼吸によって水分は失われるため、就寝中の脱水症の対策も重要です。おすすめなのは、就寝30分前に100〜150mL程度を5分ほどかけてゆっくり飲むこと。利尿作用のあるアルコール、カフェイン飲料は避け、水や麦茶を常温かやや温めて飲むとよいでしょう。
今年の夏は「のどが渇く前」の一杯を習慣に
熱中症は決して屋外だけで起こるものではありません。
のどが「渇いたから飲む」ではなく、「渇く前に飲む」。この小さな習慣が、この夏の健康を守ってくれるはず。水分補給の大切さを決して忘れないでください。
教えてくれた人:医学博士・谷口英喜さん

神奈川県済生会横浜市東部病院・患者支援センター長。医学博士。臨床業務、臨床研究、大学院教育、講演活動を行うとともに、医療従事者の生涯教育や「飲水学」の普及に力を注いでいる。著書に『いのちを守る飲水学:からだがよろこぶ水分補給のトリセツ』(評言社)などがある。


