健康寿命を伸ばすにはウォーキングが効果的だといわれています。ウォーキングというと、“運動をしやすい服装で、歩幅や歩くスピードなどに気を付けながら行うもの”と思いがちですが……。お散歩でもオッケー、筋力トレーニングを併用するとさらに効果アップのようです。帝京大学医療技術学部スポーツ医療学科教授 佐藤真治さんにお話を伺いました。
よく歩く人は長生き、でも健康寿命はちょっと違う?
ウォーキングをするだけでは、健康寿命は伸びません。伸びませんけど、こう言っちゃうと話が終わっちゃいますね(笑)。誤解も生まれますので、順番にお話していきます。
健康寿命というのは、寝たきりにならない期間です。ウォーキングの効果で明らかになっているのは、よく歩いている人は長生き、これは間違いないんです。
どんな人種でも、男性も女性も、よく歩いている人は長生き。どれくらい長生きかと言うと、データによっても違うんですが……。少し古くなりますが、98年にハワイの日系人の方たちで取ったデータがあります。
研究開始時点で70歳の方々、707人を12年間追跡したものなんですが、1日に歩く距離1マイル以上、つまり約1.6キロ以上を歩いている方は、歩かないグループよりも15%くらい長生きでした。よく歩く人が長生きすることは分かっているんです。
ただ健康寿命となると、単純に長生きすればいいわけじゃなくて、寝たきりにならないってことが大事になってきます。
健康と要介護の境目となるフレイルとは何かを知ろう
では、寝たきりにならないために大事なことはなにか。フレイルにならないことが大切です。フレイルとは、介護の一歩手前、健康状態と要介護状態の中間を指します。日本老年医学会が2014年に提唱した概念「Frailty(虚弱)」の日本語訳ですね。
このフレイルには
1️ 精神的フレイル、うつ状態や軽度の認知症
2️ 社会的フレイル、社会とのつながりが薄い独居、経済的困窮
3️ 身体的フレイル
以上の3つがあります。
ウォーキングはこのうち「精神的フレイル」と「社会的フレイル」の改善に有効です。週に3回、朝晩1回15分ずつでいいです。外に出て歩くことが大変大事なんです。
ひとつめの精神的フレイル、これに陥る諸悪の根源は、うつ症状です。高齢になるとどうしても抑うつ状態になりやすくなります。それが原因でお家で引きこもってしまったりすることがあるんですが、歩くことはうつの改善にスゴくいいんですね。
うつというのは、いろいろ複雑なメカニズムで起こるんですけど、煎じ詰めて言えば脳内ホルモンのバランスの崩れと捉えることができます。ウォーキングを適切に用いれば、脳内ホルモンのバランスを整えてくれるんですね。最近分かったこととして、歩く強度は軽くていい。時間も短くていい。それで十分に効果が出るんです。
うつ予防に関しては、ランニングよりウォーキングのほうが効果が高く、朝にお日様を浴びながら歩くとセロトニンという物質が脳内で分泌されます。幸せホルモンとも呼ばれるこの物質は、うつを治すわけではありませんが、精神的フレイルに効果があります。
夜に歩いた場合は、同じようにセロトニンが出るんですが、これがメラトニンという睡眠に効くホルモンへ変化します。結果的に、よく眠れるようになるんですね。眠ることは高齢者には重要ですから、これもオススメとなるわけです。
次に社会的フレイル。これは配偶者の方や友人など、誰かと歩く。もしくは誰かに会いに行くために歩く。犬の散歩でもいいですよね。ペットがいることは社会的フレイルの改善にはならないんですが、飼い主同士で話が弾んだりしますよね。これが大事になってきます。どんな形でも社会と関わりを持つのが重要なので、歩いて誰かと会話する。これを心がけるといいでしょう。
筋力は大事だけれどやりすぎは禁物。ケガをしないようにセーブ
3つ目の身体的フレイルにならないために、もっとも重要なのが筋力です。ですから筋力を鍛えないといけないんですけど、困ったことにウォーキングだけでは筋力はつかないんです。ですので、ウォーキングに筋トレを併用することではじめて健康寿命延伸の効果を期待できます。 ゆっくり行うスクワットなどがオススメですね。歩行だけでは補えないような複数の筋肉を使うことができます。長生きするためには、遅筋という筋肉を鍛えることが大事なんですが、ゆっくりスクワットすることで遅筋を刺激することができます。
遅筋の中にはミトコンドリアという小器官がたくさん入っているんですが、この機能が落ちると活性酸素が生まれやすくなり、老化が進行するんです。筋力とともにミトコンドリア機能も高めるので、ひと粒でふたつ美味しいです。
やりすぎてケガをする事例も増えていますので、強度は軽めから始めるのが大切です。まずは自重でゆっくり、そこから軽い負荷のマシンなどで運動するのもいいですね。チョコザップなんかもいいですよ。着替えなくていいですし、手軽に運動できます。アレは目の付け所がいいですよね(笑)。
たまに、健康のために1日2万歩歩いてますなんて方がいますが、歩き過ぎも良くないんです。何年も毎日2万歩歩いてるという方は、そのまま歩いてもらって構いませんが(笑)、健康利益という点では一般の方なら8000歩。高齢者であれば6000歩。1万歩以上歩くと、やればやるほど効果が出るわけではないんです。
それから、よく誤解されるんですが、この8000歩、6000歩というのは朝起きてから寝るまでのトータルの歩数です。1回のウォーキングで達成しようとする人がいるんですが、そうすると歩き過ぎになってしまいますから。朝と夜に15分ずつ歩く。それ以外は生活の中で動いてトータル6000歩歩いていれば、高齢者の方は問題ないと考えてください。
ウォーキングを暮らしの中に溶け込ませて、1日6000歩を目標とする、そして筋トレもしっかり行う……。これでフレイルに陥らずに健康寿命を伸ばすことができると思います。
佐藤真治さん/2021年より、帝京大学 医療技術学部 教授に就任。日本心臓リハビリテーション学会 評議員、日本体力医学会 評議委員、日本臨床運動療法学会 理事Exercise is Medicine (EIM) Japan理事など、さまざまな学会で精力的に活動している。著書に『歩く人。長生きするには理由がある』(創英社/三省堂書店)がある。