日本には10万種類以上の名字があるといわれていますが、難読の珍しい名字も多数。「なかでも数字が入っている珍しい名字は多いですよ」というのは名字研究家の髙信幸男さん。数字を使ったレア名字を教えていただきました。
漢数字一文字、「一」「九」「十」はそれぞれなんと読む名字?
まずは愛知県で数世帯の「一」さん。
「いち」でも、「はじめ」でもありません。
一、二、三、四、五、六、七……。
一は常に、二の前ですよね。
だから、正解は
「にのまえ」さんです。
続いて「九」さん。
こちらは日本に2世帯の名字。
「九十九」(つくも)さんという名字は、ままありますが、こちらは漢字の「九」がひとつ。
“一字で九”ということで、
正解は「いちじく」さんです。
漢数字一文字の珍名字の最後は、神奈川県に1世帯の「十」さん。
「一(にのまえ)」さんの流れでいくと、
「くのあと」さんと考える方もいるのでは。
でも全然違います。
こちらは物の数え方にヒントあり。
物を数える際、
「一(ひと)つ、二(ふた)つ、三(みっ)つ、四(よっ)つ、五(いつ)つ、六(むっ)つ、七(なな)つ、八(やっ)つ、九(ここの)つ、十(とう)」と、数えますよね。
文字にするとよく分かりますが、「十」だけ「つ」がありません。
ということで、
正解は「つなし」さんです。
頓智の効いたこれらの名字。明治時代、すべての国民に名字を名乗ることが義務づけられた際、「ユーモアのある名字を名乗りたかった人がつけたのでしょう」と髙信さんは予想します。
「一口」さん。出入口が「一口」だと起きる状態を示す名字です
京都や熊本に30世帯ほどあるという「一口」さん。
「ひとくち」「いちくち」「いちろ」ではありません。
もし、出入り口が一つの建物に大勢の人が訪れると、出入り口が混雑しますよね。その状態を表す言葉。
「●●●●●状態」といいます。
正解は「いもあらい」さん。
読み方がそのままの名字も
例えば「三八九」さんは、「さばく」さん。岐阜に1世帯の珍苗字です。
新潟県に6世帯ほどいる「三九二」さんは、「みくに」さん。新潟県は上野、信濃、越後の三国を見渡せる三国峠があり、それを由来に「三国」さんと名乗っていたのが、「三九二」に変更されたのではと髙信さんはいいます。
静岡県に2世帯の「一尺八寸」さん
こちらは草を刈るときに使う鎌のサイズが由来。
その昔一揆を恐れた殿様が、農民に草刈鎌の束のサイズを「一尺八寸」までにするよう命じたことが由来といいます。
読み方は「かまつか」さんです。
「左衛門三郎」さん。「三郎」も名字です。
名字なのに名前のよう、しかも五文字と長い、「左衛門三郎」さん。読み方はそのまま「さえもんさぶろう」さんです。
平安時代、左衛門尉(さえもんのじょう)という左衛門府の判官の役職があり、とある家の三男が、官職から「左衛門三郎」を名乗ったとされています。
数字がつく名字には順番や分配量を示した名字も
ラグビー日本代表の活躍で「五郎丸」さんという名字が有名になりましたが、「丸」には場所を分ける意味があり、例えば「五郎丸」さんなら「五郎さんが所有する土地」を表わしていて、それを名字としてつけたとのではないかと髙信さんはいいます。
なかには「三分一(さんぶいち)」「四分一(しぶいち)」「六分一(ろくぶいち)」という名字も。「名前の通り、“三分の一”や“四分の一”など、おそらく田んぼなどの土地の分配量を示した名字だと思われます」と髙信さんはいいます。
数字を使った珍しい名字を紹介しましたが、それぞれ当時の人のユーモアを感じたり、歴史を読み解いたりすることができました。
珍しい名字に限らず、地名や職業を由来としているなど、名字にはさまざまなエピソードが隠れています。あなたも、ご自分の名字の由来について調べてみてはいかがでしょうか。
髙信幸男さん/1956年生まれ。高校1年生の頃から名字の研究をはじめる。電話帳を手に、全国の珍名さん等を直接取材。研究結果をテレビ、講演等で発表している。『日本全国歩いた! 調べた! トク盛り「名字」丼』(柏書房)、『ご当地珍名見つけたい~髙信先生の全国行脚~』(恒春閣)など著書多数。
※各名字の世帯数は髙信幸男さんが独自に調査された数字です。