
痰が絡んだ咳が出やすくなったと感じている方はいませんか。街中でも痰がからんだ咳を繰り返している人をよく見かけます。「年齢のせいかな」「これくらい、まあ大丈夫だろう」と軽く考えがちですが、実はその咳や痰は体からの重要なサインかもしれません。考えられる病気や受診が必要なケースを医師がアドバイスします。
「風邪をひいていないのに咳が出る」は要注意

咳は、気道に入ったホコリなどの異物やウイルスを外へ出すための体の防御反応です。咳が出る原因としては風邪や副鼻腔炎といった炎症によるもの、花粉やハウスダストのアレルギー反応、ストレスなど、さまざまです。
「風邪ではないのに咳が出やすいという症状は、患者さんの中でもご高齢の方に多い傾向にあります」と話すのは内科医の内藤いづみさん。そもそも高齢者は呼吸機能の低下により痰が出やすい傾向にあるのだそう。「でももし咳が長引いているようなら『年を取ったから仕方のないこと』と簡単に片づけないでください。特に痰が絡んだ咳は要注意です」
そもそも痰は、気道粘膜の炎症や、気道の過剰な分泌物などを排出しようとしているときに出やすくなります。熱がないのに痰が絡んだ咳が出るということは、感染症や気管支喘息などの可能性があり、内藤さんは「60代以上の方が3週間近く痰が絡んだ咳が続く場合は慢性閉塞性肺疾患(COPD)の疑いが強い」と言います。
死因第9位の慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは?

COPDはあまり耳にしたことがない方もいるかもしれません。COPDとは、これまで慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれてきた病気の総称。有害物質を長期に渡って吸入することで生じる肺の炎症性疾患です。喫煙者の15~20%が発症するとされています。
発症すると酸素を取り込む力が弱まるため、動くとすぐに息が上がったり、脳が酸欠状態に陥ってボーっとしやすくなったりするなど、日常生活に支障をきたすようになります。また、呼吸機能自体が低下してしまうので痰を出しづらくなり、自身の不快感だけではなく周囲が不安になるような「カーッ」という痰を吐き出す大声が出てしまうこともあります。
日本呼吸器学会によると、40歳以上の人口の8.6%、約530万人のCOPD患者が存在すると推定されており、その大多数が受診せず、治療していない状態であると考えられます。
「受診すると禁煙をすすめられるため、喫煙者はなかなか病院に行きたがりません。でも、この疾患は自然治癒が困難な病気であるため、なるべく早く呼吸器科を受診してほしい」と内藤さん。実はCOPDは死亡原因の9位、男性では7位を占めており、決して「ただの咳」などと侮ってはいけない病気なのです。
あなたは大丈夫? まずはセルフチェックをしてみましょう

前述したとおり、咳や痰が出る理由はさまざまですが、慢性化していると「いつものことだから」とつい軽視しがちです。まず下記のリストで自身の状態をチェックしてみましょう。 1、毎日咳が出る
2、1日5回以上痰が出る
3、痰に粘り気がある
4、痰の色が黄色っぽい
5、タバコを吸う(過去に吸っていた)
6、階段を上ると息がゼエゼエする
上記のうち、3つ以上当てはまったら、まずは呼吸器科を受診することをおすすめします。「特に1~4にチェックが入った方は、肺呼吸機能検査を受けると安心です」(内藤さん)
COPDの治療法と日常生活でできること

POCDの治療法ですが、根本的に治して元のような健康的な肺に戻す方法はありません。しかし、症状の進行を防ぎ、将来の健康リスクを低減するための方法はあります。
病院でPOCDと診断されたら、まず喫煙者は禁煙を求められます。「タバコを吸うのは、肺に火事を起こしているようなものです。肺が炎症を起こすのはやむを得ないこと。改善したい意思があるならタバコは必ずやめましょう」(内藤さん)。
他にも気管支を広げて呼吸を楽にする気管支拡張薬や抗生物質、吸入ステロイド剤などによる薬物療法や呼吸リハビリテーション等の治療法があります。
医療機関による治療のほか、咳と痰の症状緩和のために日常的にできることもあります。
まず、呼吸は腹式呼吸を心掛けましょう。横隔膜を動かすと楽に呼吸ができるようになります。また、息を吐き出すときに口を小さくすぼめることで、肺から出ようとする空気の圧で気管支が広がって呼吸が楽になります。
水分補給や外出時のマスク着用、部屋の加湿も痰を出しやすくするために効果的ですし、ウォーキングなどの有酸素運動を習慣にすることもおすすめ。「肺の機能維持や改善のために、医師と相談しながら無理のない範囲で取り入れてみてください」(内藤さん)
老後を楽しむために、まずは早期受診を

COPDを放置しておくとQOL(Quality of Life=生活の質)の低下につながり、特に高齢者は外出が億劫になって家にこもりがちになるため注意が必要だと内藤さんは言います。
「咳や痰は肺がんのような深刻な疾患が隠れている可能性もあります。私が診る患者さんの中には『これくらいの咳は大したことない』なんて言う方もいますが、それは医師が診断すること。5年後、10年後も好きなことを楽しみながら元気でいたいなら早めに呼吸器科を受診し、原因を確かめるようにしてくださいね」(内藤さん)
参考情報:一般社団法人「日本呼吸器学会」
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/b/b-01.html
■教えてくれた人

内科医 内藤いづみさん
ふじ内科クリニック院長、大正大学客員教授、山梨大学講師。
昭和31年、山梨県生まれ。福島県立医科大学卒業。主な著書に『いい医者 いい患者 いい老後』(永 六輔氏と共著/佼成出版刊)、『死ぬときに後悔しない生き方』(総合法令出版刊)ほか多数。在宅ホスピス医としての活動が「情熱大陸」(MBS放送)などメディアでも注目されている。