
「あれ?どこに行った?」と思ったら、棚の上ですやすや寝ていたり、箱の中に潜り込んでいたり……。猫(イエネコ)は高いところや狭いところにいることが多いもの。猫が高所や狭所を好む理由のほか、猫が暮らしやすい環境を整えるためのポイントなどについて、紹介します。
監修/猫心理学者 高木佐保さん
祖先から引き継ぐ、猫の居場所選び
そもそも猫のルーツは、アフリカや中近東の砂漠に暮らすリビアヤマネコです。身を隠して忍耐強く獲物を待ち伏せする狩猟スタイルで、小動物や鳥、虫などを捕食します。
リビアヤマネコは1万年ほど前から中東の農村で人間と共生し始め、古代エジプトで家畜化、その後、自由気ままで“ツンデレ”な愛らしさから世界中に広まり、現在のように人間に愛される猫へと進化したといわれています。

猫は人間と共生していく過程で、「ニャ~」とかわいらしく鳴いてコミュニケーションを取る能力を培いました。とはいえ、その本能はリビアヤマネコから引き継いでいます。
猫は室内では、棚の上などの高いところや、段ボール箱、家具のすき間などの狭いところを好みますが、それは身を隠しながら周りを見渡せる場所が本能的に安心するからだと考えられます。

ちなみに、猫が抱っこを嫌がったとしても、抱っこされるのが嫌なわけではないことも。猫は自由気ままに自分が居心地のいい場所で過ごす傾向にあるため、抱っこをされているときの姿勢の心地よさも大事。抱っこのされ方によって居心地が悪いこともあるようです。
いつも抱っこしても逃げてしまうという場合は抱き方に問題がある可能性も。いつもと違う抱き方をすれば、もしかしたら嫌がらずに腕の中でリラックスしてくれるかもしれませんよ。
※“抱っこ嫌い”は生まれ持った性質にもよるので、一概に抱き方を変えればリラックスするとは限りません。
「運動不足」と「退屈」を解消する環境づくりがポイント
猫はストレスが溜まると排泄を失敗したり、配線を噛んだり、過剰に自身をブラッシングしたりします。そして、ストレスの原因のひとつになるのが環境です。

猫は本能的に高いところが好きで、ジャンプ力やバランス感覚、柔軟性も持ち合わせています。運動神経抜群の猫が、自由に活発に動ける環境がないと運動不足によってストレスが溜まることがあるのです。また、猫にとって、毎日の刺激も大切です。同じ部屋にいることで刺激が少ないと退屈になってストレスに。
最近では、外に出ることがなく室内だけで暮らす猫も増えていますので、そうした猫には上下運動ができて入り組んだ設計になっているキャットタワーは、ほどよい刺激もあって最高のアイテムになります。
ただし、キャットタワーも同じ場所に置き続けていると退屈になってしまうので、ときどき模様替えをしてあげると、違った景色を楽しむことができていいかもしれません。猫は本能的に鳥や昆虫が好きです。窓の近くに置くなど、外の景色が見られるようにすると喜んでくれるはずです。

また、猫は狭い場所の中でも特に段ボール箱を気に入ることが多いようです。
もし段ボール箱で荷物が届いたら、すぐに片づけず、ちょっと置いておいてあげると喜んでくれるかもしれません。

室内の温度管理もしっかりと

冬は暖かい陽だまりに、夏は玄関の冷たいタイルの上になど、猫は自ら過ごしやすい温度環境を選んで移動しますが、飼い主がきっちり配慮してあげることも大切です。
冬に強く丸まっていたら寒い証拠です。潜り込んで体を温められるよう毛布を準備しておくとよいでしょう。

夏にお腹を見せていたら、暑い証拠です。冷感敷きマットなどを準備してあげるとよいでしょう。
よく、猫があまり水を飲まないため夏の熱中症を心配する方がいらっしゃいますが、猫のルーツは砂漠で暮らしていたリビアヤマネコ。健康な猫であれば、それほど心配する必要はないでしょう。
猫は人間の生活リズムに合わせてくれる
ルーツとなるリビアヤマネコは基本的に単独行動で夕方や朝方に活動が高まる薄明薄暮性。そのため猫も一匹で飼って早朝や夕方は動き回らせたほうが良いかというと、そうではありません。
複数飼いをしても、食事量が十分にあり、それぞれが快適に過ごす場所が確保されていれば、リラックスして過ごすことができます(たまに、どうしても相性の合わない猫もいますが……)。
また、人間の生活リズムに合わせる適合性もあるので、飼い主が寝ている夜は猫も同様に寝て過ごします。
猫にとってリラックスできる環境が整っていれば、猫は自由気ままに過ごしつつ、飼い主に寄り添ってくれるでしょう。
監修/高木佐保さん 猫心理学者。麻布大学特別研究員。日本学術振興会特別研究員(RPD)。「ネコは音からモノの存在を想像する」「ネコは思い出を持っている」という研究成果により、2017年度京都大学総長賞を受賞。ネコ研究集団「CAMP NYAN TOKYO」の一員としても活動中。著書に『ネコはここまで考えている・動物心理学から読み解く心の変化』(慶応義塾大学出版会)がある。