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インド人がインド人のために作った食堂 リトルインディア西葛西で食べるインドの“ガチ”家庭の味とは⁉ ~前編・北インドの家庭の味~

インド人がインド人のために作った食堂 リトルインディア西葛西で食べるインドの“ガチ”家庭の味とは⁉ ~前編・北インドの家庭の味~

東京メトロ東西線が走る東京都南部に位置する東京都江戸川区西葛西には、現在、約7,000人のインド人が暮らしています。約27年前、この地にインド人のためにオープンしたレストラン「スパイスマジック カルカッタ」では、インドの家庭料理が楽しめるとのこと。レストランのオーナーでありリトルインディア西葛西の立役者、ジャグモハンS.チャンドラニさんにインドの“ガチ”家庭の味についてや、西葛西がリトルインディアとなった経緯を伺いました。

「北インド」の主な食材は「小麦」「野菜」「豆」「ジビエ」。ナンは家庭料理にあらず⁉

チャンドラニさんが西葛西で暮らすインド人のために27年前にオープンした「スパイスマジック カルカッタ本店」。店名はチャンドラニさんの故郷、インド北部のカルカッタにちなんで北インドの料理が提供されています。同店は南口店もあり、こちらは南インド料理のお店。

そもそも、北インドと南インドの料理はどう違うの?

「インドの中央付近にあるヴィンディヤ山脈を境に北と南に分けて考えられています。
北インドは、ヒマラヤ山脈に海風がぶつかって雨がたくさん降り、ガンジス川流域の平地では、おいしい野菜と豆が豊富に採れます。海がないので、タンパク質の摂取源は川魚や、鶏肉やマトン、鹿や猪といったジビエなどです」
北インドの中央部と西側では小麦が豊富に収穫できるので、主食は米ではなく小麦を使った“ロティー”と呼ばれるパンです。

お馴染みのナンも“ロティー”の仲間ですが……。
「ナンはタンドールという窯で庫内を400度まで上げて焼きます。そんな窯は家庭にはないので、ナンは家庭料理ではないんです。

家庭では、小麦粉を水で練ってターワという鉄板で焼く、ロティーの一種のチャパティや、生地に野菜や豆を入れて焼くパラタが主流。生地を丸く成形して菜種油などで揚げたプーリもよく食べます」

北インドではどの家庭にも必ずあるという鉄製のターワ。写真は小麦で練った生地にカリフラワーを包んで焼いたパラタ500円(税込)。

パラタはスパイスを加えたヨーグルトや、チャツネと呼ばれるピクルスなどとともに。「簡単に作れるから、朝ごはんやおやつ、夜食などで食べますよ」。

チャパティ200円(税込)は炒め物やカレーとともに。香ばしく、軽い食べ心地で何枚でもいけちゃう!

チャパティに合わせて食べる北インドのちょっと“通”なメニューとは⁉

では、チャパティに合わせてよく食べられているものは? 

バターチキンカレーやサグ(ほうれん草)カレーなど日本でメジャーな料理ではなく、ちょっと“通”な料理を教えてもらいました。

「炒め物、煮物、スープ、いろいろあるけれど、家庭でよく作るもののひとつはジャガイモをクミンと塩で炒めたもの。あと、私のおすすめはコルマといってナッツペーストで仕上げたマイルドなカレー。食材が鶏肉ならチキンコルマ、羊肉ならマトンコルマと呼びます」

肉や魚は一切使わずじゃがいもと塩とクミンだけのシンプルな味つけ。しっかり炒めたじゃがいもに、クミンの風味と塩味がマッチして、これはチャパティもいいけどビールが進みます!1,100円(税込)

チキンコルマ1,180円(税込)。クリーミーでこってり濃厚。旨味がたっぷりで驚きの旨さ!

「北インドの主食や小麦だと言いましたが、食材とスパイスで炊き込んだビリヤニも食べます。北インドの米は長くて小さいミクロの穴が空いているのが特徴。穴からスープがしみ込みます」

鶏肉と並び北インドでよく食べられる羊肉を使ったマトンビリヤニ1,700円(税込)。スープがしっかり染み渡ったビリヤニは、そのまま食べたり、スパイス入りのヨーグルトや生タマネギで味変したりして食べます。お店にはチキンビリヤニもあります。

北インド出身のシェフのシャルマ・シブさん。シャルマさんのおすすめはマトン・ビリヤニと骨付きマトンを使ったマトンブーナマサラとのこと。

スパイスマジック カルカッタ 本店 
住所:東京都江戸川区西葛西3-13-3 営業時間:11:00~14:30 17:00~22:00
電話:03-5567-3885
アクセス:東京メトロ東西線「西葛西駅」から徒歩5分

ところで、なぜ西葛西はリトルインディアになった?きっかけは “2000年問題”

ジャグモハンS.チャンドラニさんは、西葛西で紅茶の輸入業などを行う実業家であり、江戸川インド人会会長を務めています。

チャンドラニさんが西葛西に暮らし始めたのは1979年のこと。それから1997年までインド人は4世帯しか暮らしていなかったと言います。

「コンピューター業界で西暦2000年問題とうのがありましたよね。その解決のため1997年、インドから多くのITエンジニアが来日しました。彼らの職場は東西線沿線の大手町や日本橋にあり、1本で通える西葛西で暮らしたいと部屋探しをしていましたが、保証人もいない彼らに部屋を貸してくれるところはありませんでした。そんなとき、私がたまたま駅前を歩いていると普段はめったに見かけないインド人が歩いたので声を掛けると、部屋探しに困っていると……。そんな流れから、私や仲間たちで彼らの部屋探しや保証人のお手伝いをすることになったんです」

部屋が見つかったインド人たちですが、今度は“食事問題”にぶつかります。


東京メトロ東西線「西葛西駅」周辺。

日本の出汁を食べられないベジタリアンも。インドの家庭の味を食べられる食堂をオープン

「彼らのほとんどは、独身。仕事で帰りは遅くなるし、料理は慣れていない。家庭の味が食べられる店もない、食堂が欲しいという声が多く、インドから料理人を呼び寄せてインド人のためだけの食堂を開きました」

肉や魚を食べないベジタリアンも多く、カツオ出汁を使った日本料理を食べられない人もいたそう。スパイスマジック・カルカッタの前身となった食堂では、ベジタリアンも食べられるインドの家庭料理を提供。西葛西で暮らすインド人の人数分だけ料理を準備していたため、“一見さん”はお断り。インド人以外は利用できませんでした。

「そのうち近隣の方などからのリクエストもあり、いろんな方にご利用いただける現在のスタイルに変更。スパイスマジック カルカッタ本店をオープンしました」

その後、南インド料理を食べたいとのリクエストがあり、南口に「スパイスマジック カルカッタ南口店」をオープン。

では、南インドの家庭料理とは? 後編に続く!

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