
定年を迎え、年金生活に入る60代。「これからはゆっくりしたい」と思う半面、年金だけの収入に不安を感じているという方におすすめなのが、「好きなこと」を活かして趣味感覚で小さく稼ぐ働き方です。自分に合ったプチ収入の見つけ方を専門家に聞きました。
「退職後のんびり」は過去の話!年金生活には+αの収入が必要

「今まで40年近く仕事に追われてきたわけだから、退職後は家でのんびり過ごしたいなぁ」――。
定年を迎えた方の中には、こんな風に思っている方も少なくないのではないでしょうか。ノルマに追われず一日中家でゴロゴロできるなんて、おそらくウン十年ぶりのこと。好きなように時間を使ってのんびり……したいところではありますが、そうはしていられないのが現実のようです。
総務省統計局の家計調査(2022年)の平均結果によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の月々の平均消費支出額は、236,696円。一方で、年金受給額を見ると夫婦2人分の標準的な年金受給額※は230,483円と支出の方が上回る結果となっています。
※出典:日本年金機構「令和6年4月分からの年金額等について」
平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)43.9万円)で40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))の給付水準。実際の受給額は加入していた年金制度や収入などで異なる。
定年後の収入は再雇用で働いていない場合は年金がメインとなるため、年金で不足する分は貯蓄を切り崩すことになります。さらに、最近は物価が上昇し、消費支出も増加する傾向に。趣味や飲み会など好きなように使うお小遣いが欲しいなら新たに「稼ぐ方法」が必要になります。
「とはいえ定年後の方が、いきなり『ウン十万稼ぐぞ!』というのはハードルが高い話。なので、まずは趣味や好きなことを活かして、ストレスなく月1~2万円くらいを稼ぐ方法をご提案しています」と話すのは、副業評論家の藤木俊明さん。「たった1万円か、と思う方もいるかもしれませんが、1万円あればちょっといいランチを食べに行って奥様の食事の準備の負担を減らせますし、夜の飲み代なら3回分くらいの足しになります。定年後の1万円の価値は大きいものですよ」
興味が少しでもわいたら、そのときが始めどき! さっそく「稼ぎ方」について見ていきましょう。
始めるのに必要な物は何?必要なスキルはある?

最初に、どんな仕事をするにしても共通して用意しておいたほうがよいものを教えてもらいました。
まずはスマホとパソコン(PC)を必ず用意しましょう。
「今の時代、ネットを駆使できないとお小遣い稼ぎだって成り立ちません。スマホだけでも事足りはしますが、持ち歩きも可能なノートPCもあった方が画面が見やすく作業もしやすくていい」と藤木さん。「会社から支給されたPCを使ってきたので自分用を持ち合わせていないという人も意外と多いので、この機会に自分へのご褒美としてノートPCを購入してみるのもおすすめです」
2つ目は、新たに始める仕事用の口座を新設すること。
「年間20万円以上の収入があると確定申告が必要になります。20万円を超えた場合、専用口座があると確定申告の際にラクです。確定申告では経費の証明となる領収書が必要になるので、経費の領収書だけを収納する箱やファイルなども用意しておいたほうがいいでしょう」
そして、藤木さんが「持ち合わせておいた方がいいスキル」とアドバイスするのが、「テキストコミュニケーション能力」です。仕事の受注や仲介プラットフォームでのやり取りは、基本的にメールが中心になるので、テキストコミュニケーション能力は重要。文章で相手を不快にさせるような書き方をしてしまっては、仕事も入らなくなります。とはいえ、会社で普通に仕事メールをやり取りしてきた方でしたら基本的なことは問題ありません。
また、メールが届いたらすぐ返信をするといったレスポンス力も、仕事の受注に大きく関わってくると言います。「仕事を受けた以上は、きちんと早くこなす。少額の仕事であっても相手にとっては大事な依頼なのですから、プロ意識をもってのぞみましょう」
自分に合った稼ぎ方は「3つのポイント」を大切に!

では、一体どうやって自分に合った稼ぎ方を探したらよいのでしょう。藤木さんによると、定年後の稼ぎ方を探す際には次の3つがポイントだと言います。
1、自分の好きなこと、興味のあることかどうか
これは一番大事なこと。ストレスのかかることを無理してやるのはやめましょう。
2、投資金額はゼロかどうか(退職金・年金に手をつけるのはNG)
「初期費用がかかる」というものは怪しい話もあります。リスキーなので、むやみに手を出さないで。
3、会社でやってきたスキルを活かせるかどうか
現役時代に当たり前にやってきたことを「自分はこんなことをやってきたのか」と自ら再評価する機会になり、自分自身の棚卸しにもなります。
専門家厳選!ニーズ別 シニア世代におすすめの稼ぎ方
ここからは藤木さんおすすめの「お小遣い稼ぎ」を紹介していきます。上記3つの視点を持ったうえで、自分に合いそうな稼ぎ方を見つけてみてください。
【稼ぎ方1~2】は仲介プラットフォームを利用する方法で、在宅で受注できて手間なしというメリットがあります。ただし、実績を作るまでなかなか仕事が入ってこないこともあり挫折しやすいという面もあるため、根気強さが必要です。
※以下、掲載している収入金額は、未経験のシニア世代が始めてみて軌道に乗った際の目安です。確実に誰もがこの金額を稼げるというわけではありません。
【稼ぎ方1】仲介プラットフォームを利用してネット経由で作業を請け負い、サービスを提供するパターン

【好きなこと・得意なことを生かしたい】
■ストックフォト
撮影した写真を販売する仕事。写真が趣味の人におすすめ。
収入目安:月数千円から。引き合いの多い人は数万円単位の収入に。
- 写真AC https://www.photo-ac.com/
- ピクスタ https://pixta.jp/
■スキルシェア
自分の持っているスキルを人に教える仕事。エクセルやイラスト、美文字、占い、キャッチボールなど、業務経験から趣味の範囲までさまざまなスキルが活かせます。
収入目安:月2~3万円程度 - ストアカ https://www.street-academy.com/
- ココナラ https://coconala.com/
【会社での経験を活かしたい】
会社で培った専門的な経験を生かせる仕事。有資格者は特に引き合いがありそう。
収入目安:1回平均3万円
【社会に参加しているという実感がほしい】

■アンケート・モニター
企業から要請されたアンケートに答えて謝礼(現金やポイント)をもらう仕事。「アンケートモニター」で検索して探してみましょう。
収入目安:月数千円程度
■グループインタビュー
複数人で一つのテーマについて意見を交換する調査に協力する仕事。「グループインタビュー」で検索して探してみましょう。
収入目安:1回参加1万円程度
■投稿
企業の商品やサービス、そして社会をより良くするために「買った掃除機が使いづらかった」など日常で感じた意見を投稿する仕事。
収入目安:月数千円程度
【ネット通販を始めてみたい】
自分の作品などを商品として販売する仕事。妻や娘にハンドメイド作品を作ってもらい、自身がサイトで販売や送付を担当するのも楽しいかも。
収入目安:月数千円~数万円
- minne(ミンネ) https://minne.com/ ハンドメイドマーケット
- BASE(ベイス) https://thebase.com/ 無料ネットショップ作成システム
【遊休資産をシェアリングして「ほったらかし」で小さな金額を稼ぎたい】
空き家になった実家や使っていない土地などを貸し出すことで収入を得る方法。民泊への部屋の提供は異文化コミュニケーションにもつながり、妻や家族と共同で運営すると楽しそう。
- アキッパ https://www.akippa.com/ 駐車場提供
収入目安:月5000円~2万円 - Airbnb(エアビーアンドビー) https://www.airbnb.jp/ 宿泊施設・体験・サービス提供
収入目安:月数万円~数十万円 - MonooQ(モノオク) https://monooq.com/ 収納場所提供
収入目安:月数千円
【「書くこと」で収入を得てみたい】
文章を書いて収入を得る方法。専門知識を持った理系の人はニーズ高め。書いた文章が出版社から注目されると、将来的にはメディアの連載や本を書くなど大きな仕事につながる可能性も。

- note https://note.com/
収入目安:無料~数千円
- Webライター
出版社のサイトなどで募集の有無をチェックして応募を
収入目安:月1~3万円
【ネット経由で「小さな手間仕事」を請けてみたい(クラウドソーシング)】
システム開発やデザイン、事務作業など企業や個人がインターネット上で業務を委託するビジネス形態。
- クラウドワークス https://crowdworks.jp/
収入目安:月数千円~数万円
【稼ぎ方2】仲介プラットフォームを利用して、ネット経由で体を動かして仕事を請けるパターン
【スキマバイトで自由に働きたい】
デスクワークより体を動かしたり、人と直接接したりすることが好きな人におすすめ。動いた分だけ確実に稼げるのがメリット。即日収入が得られる仕事もあります。最短1時間から稼働時間を選べるケースもあり、体力に自信のない人にもおすすめ。
- Timee (タイミ―) https://timee.co.jp/
収入目安:1回数千円 - ご近所ワーク https://gokinjowork.jp/
収入目安:1回数千円
【趣味を活かして体験企画を提供したい】

田植え、野菜の収穫といった農業体験や、街案内、料理教室など好きなことをレクチャーして稼ぐ仕事。特に農業体験はファミリー層に人気です。
- aini https://helloaini.com/
収入目安:1回開催2~3万円
【稼ぎ方3】仲介プラットフォームを使わず、公的機関などを利用して仕事を請けるパターン
【自分が暮らす地域の役に立ちたい】
公園管理やご近所の植木の剪定、清掃、介護などの福祉サービス等、自分が暮らす地域や住民のサポートをして稼ぐ仕事。
- シルバー人材センター
自分が暮らしている地域のシルバー人材センターを検索しましょう。
収入目安:月数千円~数万円
好きなことで稼いで幸福感アップ!認知症予防にも

いかがですか? 気になる稼ぎ方はありましたか?
藤木さんは「体と頭が元気であるならば、シニア世代はどんどん働くべき」と言います。「バリバリと働いていた人が、定年を迎えて急に何もしなくなると認知症リスクが高まると言われています。『今日やることがある』と日常にいいリズムが生まれますし、色々な人とコミュニケーションを取ったり、新たな情報に触れたりすることで脳は刺激を受け、認知症予防につながります」
自分の特技や好きなことで稼げる=自分がこれまでやってきたことが評価されたということ。自己肯定感が上がり、会社勤めをしていた時とはまた違う幸福感を得ることができるかもしれません。
「好き」や「得意」を生かした新たなあなたの活躍の場を、ぜひ見つけてください。
■教えてくれた人

副業評論家 藤木俊明さん
本業はネットコンテンツ制作・編集。シニア世代は「小さな仕事」を複数行うことで、給与や年金以外のフロー収入を得ることを推奨している(複業)。それは生活防衛はもちろん、心身の健康につながると信じて、自らも60代後半になりながらも複業を実践し、その考え方をまとめた著書を出版。主な著書に『月に年金+あと10万円を得る方法』(産学社刊)、『複業のはじめ方』(同文舘出版刊)。