メダルラッシュに沸いたパリ五輪のアスリートたちや、ワールドシリーズ制覇のドジャース・大谷翔平選手らと並んで、「今年の顔」と言ったらやっぱりこの人。
ドラマ『SHOGUN 将軍』の主演スター&プロデューサーとして、米テレビ界最高の栄誉とされるエミー賞を席巻した、俳優・真田広之さん。日本人俳優の同賞獲得は史上初。作品賞、主演男優賞など全18部門での受賞は、史上最多の快挙でもありました。
そこで今回は、2003年の渡米以降、一貫してエンタメの本場で戦い続ける“ヒロユキ・サナダ”のハリウッド出演作にあらためてスポットライトを当て、国内の大手サブスクでいつでも観られる作品の中から、年末年始に“一気見”したい4本を紹介します。
文/鈴木長月
“原点”とも言うべき名作『ラスト サムライ』
まず1本目はやはり、これしかないですよね。そう、トム・クルーズ主演のスペクタクル時代劇『ラスト サムライ』。日本での興収137億円は、2004年の興行ランキング洋画部門の堂々1位。全体でも『ハウルの動く城』に次ぐ2位に入った、言わずもがなの大ヒット作ですから、「リアルタイムで観た」という人も多いでしょう。
“雇い主”である新政府に反旗を翻して、西南戦争と思しき戦いに身を投じていく主人公ネイサン・オールグレン役、トム・クルーズの“サムライ”っぷりはもちろんのこと、彼と行動をともにする不平士族の領袖・勝元盛次役を演じた渡辺謙さんが、なにより抜群の存在感。2004年のアカデミー賞&ゴールデングローブ賞助演男優賞にダブルでノミネートされたことでも、当時は大いに話題となりました。
我らがヒロユキ・サナダが演じたのは、そんなケン・ワタナベ扮する勝元の右腕・氏尾役。無骨で寡黙なそのたたずまいは、なぜか英語ペラペラで、本来は開明派であったはずの勝元とも好対照。「攘夷!攘夷!」と叫んでいたら、いつのまにか時代に取り残されてしまった“不平士族”の悲哀を体現した重要な役どころでもありました。
ちなみに、JAC(ジャパンアクションクラブ)出身で、“元祖・国際スター”サニー千葉(故・千葉真一さん)の薫陶を直々に受けてきたヒロユキ・サナダは、演技力だけでなく、乗馬や殺陣も超一流。クライマックスの戦闘シーンでは、キレッキレの彼のアクションが、主演のトムを食ってしまいかねないほどに格好よすぎて、やむなくカットせざるを得なかった……なんていう、男前すぎる伝説も残しています。
敵役を演じた2007年公開の『ラッシュアワー3』では、アジア系アクションスターの先駆けとしてサニー千葉をリスペクトするジャッキー・チェンとの競演も実現。仏・パリのエッフェル塔を舞台に、アニメ『ルパン三世 カリオストロの城』におけるルパンvs.“伯爵”のバトルを彷彿とさせる肉弾アクションも披露してくれています。
あの『忠臣蔵』を大胆アレンジ『47RONIN』
続いて紹介する『47RONIN』は、タイトルからもわかる通り、かの「忠臣蔵」を大胆アレンジした問題作。主演のキアヌ・リーブスが、天狗のいる山に捨てられた日英ミックスの“鬼っ子”という設定…と聞くだけで、なんだか胸騒ぎがしますよね?
もっとも、正統派が観たいという人は、おそらく高倉健さん主演の『四十七人の刺客』(1994年/市川崑監督)あたりを観るでしょうから、ここで最初に言ってしまいますが、今作はあくまで『忠臣蔵』を題材にした異世界ファンタジーバトルムービー。
冒頭の狩猟シーンに登場する野獣が、ゲーム『モンスターハンター』からうっかり飛び出してきたかと見紛うビジュアルな時点で「そういうもの」と割り切るのがオススメです。
ただ、大石内蔵助役に扮する我らがサナダは、やっぱりここでも物語をきっちり締めてくれる、さすがの貫禄。敵役の吉良上野介(浅野忠信)が妖術で国の乗っ取りを企む“ヴィラン”と化そうが、赤穂藩の出で立ちがどこからどう見ても、モンゴルの騎馬民族風だろうが、サナダがしっかり義士であり続けてくれるので、安心です。
とはいえ、劇中でもわざわざ解説が挿入されるほど「刀=単なる武器以上の意味をもつ侍精神の象徴」ということを理解してくれているなら、日本人にとっては『忠臣蔵』が昔話以上の意味をもつことも、ちゃんとわかってほしかった気もしますけどね……。
なお、本作で共演を果たしたサナダとキアヌは、2023年公開の『ジョン・ウィック:コンセクエンス』でも再タッグ。ゴリゴリのハードボイルドガンアクションという、まったくジャンルの違う作品&役どころで、ふたたび楽しませてくれています。
(さらについでながら、真田さん自身は『忠臣蔵外伝 四谷怪談』(1994年/深作欣二監督)で、浅野内匠頭を演じた経験もあります)
日本の小説を実写化『ブレット・トレイン』
トム、キアヌと来たら、やっぱり“ブラピ”も。そんなわけで、ブラッド・ピット主演のこちらは、日本の人気作家・伊坂幸太郎の小説『マリアビートル』の実写化。
同僚の代打で「新幹線の車内からブリーフケースを盗みだす」という依頼を安請け合いしたことから、殺し屋たちから命を狙われるハメになってしまうブラピ扮する不運な運び屋“レディバグ”を主人公とする、巻き込まれ系ノンストップアクションです。
コロナ禍で日本ロケがまったくできなかったこともあってか、ふつうに走れば東京→京都間をおよそ2時間半で走りきるはずの新幹線が、なぜか夜中に出て朝方に着く夜行列車だったり、静岡を通過してから富士山がドーンと登場したりと、ツッコみどころも多々ありますが、ブラピの画力とテンポのよさで、ワクドキは最後まで持続。 サナダの出番は、先の2作と比べるとかなり少なめではありますが、彼の演じる謎多き元武闘派やくざの“長老”が、朝焼けの京都をバックに魅せるクライマックスのアクションは、一太刀でオイシイところをぜんぶ掻っさらいかねないほどシビれる渋さ。観終わったあとの満足感を大幅に引き上げてくれること請けあいです。
余談ですが、日本が誇る新幹線は、サナダも主要キャストのひとりで出演した2013年公開の『ウルヴァリン:SAMURAI』にも登場しています。走る新幹線でのド派手アクションが見どころなのは、両作共通ですから、この機に見比べてみるのもきっと楽しいと思います(※『ウルヴァリン』はマーベル作品ですので、Disney+で観られます)。
実話ベースの意欲作『MINAMATA-ミナマタ-』
最後は、これまでの爽快アクションとは180°趣きの異なる実話を基にした硬派な1本も。主演のジョニー・デップが演じるのは、世界的写真家集団『マグナム・フォト』のメンバーでもあった実在の写真家W・ユージン・スミス。
1971年から3年間にもわたって、実際に熊本・水俣の人々と寝食をともにした彼と、その妻で日本人を母にもつアイリーン・美緒子・スミス(美波)の視点から、国や企業がその責任を認めるまえの“水俣病”の実像に迫った社会派ドラマです。
サナダが演じるのは、責任企業チッソに補償を求める運動の先頭に立つ地元の“闘士”ヤマザキ・ミツオ役。本作では、持ちまえのアクションをいっさい封印。史上初の日本人キャストとして、かつて『ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー』の舞台にも立った演技派らしい魂のこもった熱演で、観るものを惹きつけます。
患者たちが国や企業を相手に勝訴を勝ち取った裁判からもすでに半世紀以上。小学校で誰もが習った“4大公害病”自体が過去のものとなりつつあるいまこそ、誰もが浮かれ沸きたった「高度経済成長」の陰で、苦しみながらも戦い続けた人々がいたことを忘れないでいるのも、大事なことなのかもしれません。
年末年始に一気観したい真田広之さん出演のハリウッド映画4作品を紹介しましたが、ちなみに、話題のドラマ『SHOGUN 将軍』は、真田さん自身がプロデューサーを務めただけあって、見ごたえバッチリ。Disney+に課金する価値も十二分にある名作です。
ただそこは、ジェームズ・クラベルの小説をもとにした1980年版米国ドラマのリブート作。徳川家康vs.石田三成の関ヶ原へと至る歴史ドラマとして観ると、やっぱり違和感はありまくりですので、あくまでも史実とは似て非なるパラレルワールドの“戦国ファンタジー”として観るのが正しい楽しみ方だと言えそうです。
お城大好きの筆者としては、本来は屋根つきでないとおかしい長屋構造の多聞櫓が、吹きっさらしの「万里の長城」状態だった点だけは強く異を唱えたいですが(笑)。
鈴木 長月(すずきちょうげつ)/1979年、大阪府生まれ。関西学院大学卒。実話誌の編集を経て、ライターとして独立。現在は、スポーツや映画・アニメから、歴史・グルメまで、あらゆる分野で雑文を書き散らす日々。趣味はプロ野球観戦とお城巡り。本サイトでは「昭和プロ野球 伝説の「10・19」秘話 閑古鳥の鳴く川崎球場が日本でいちばん熱かった日」「男の日帰り“ちょい”城旅<神奈川県小田原 前編>名城・小田原城の“難攻不落”を体感!」「男の日帰り“ちょい”城旅<神奈川県小田原 後編> 石垣山一夜城を“天下人”気分で散策!」「JR東日本の『どこかにビューーン!』で、ビューンと出かけてみた結果」を執筆している。