「親世代は物があることがいいと思っている世代。実家に物があふれていて子どもが困っていることを認識できない人は多いですよ」というのは、実家片づけアドバイザーの渡部亜矢(わたなべあや)さん。
とはいえ、実家の片づけは親が元気なうちに、なるべく早く始めた方がいいと言います。
その理由と、親ともめずにできるだけスムーズに片づけを進める方法を伺いました。
実家の片づけを親が元気なうちにやっておかなかった場合のリスク
実家が散らかる原因に親の体力の衰えがあります。ほとんどのシニアは、自分のことを実年齢よりも2割くらい若いと思っているといわれます。
そのため、「片づけよう」と子どもがいっても、親自身はまだまだ若いと思っているので「いつか片づける」と答える。でも実際には、片づける気力も体力も追いつかず、その「いつか」がいつまでもやってこず、リスクが発生するのです。
●親が安全に健康に暮らせない可能性
家が片づいていない場合の一番のリスクは、命に係わる事態を招く可能性があるということ。いつも飲んでいる薬の場所がわからなくなる、物につまずいて転倒するなどです。
寝たきりになる最大の原因は自宅での転倒なので、家を片づけておくことは健康寿命の延伸にもつながります。
●家の資産価値が下がる
物が多いためにリフォームに取り掛かれなかったり、家を売って老人ホームの入居費にあてようとしても、片づけが必要な物件は売却しづらかったり資産価値が下がるなどのリスクがあります。
●不用品処理の費用を子が負担
「親が亡くなってから片づければいい」と思っている方もいらっしゃいますが、最近はガソリン代や人件費の高騰により、処理費用も値上がりが続いています。物が多いと片づけ費用だけで100万円以上かかるということもありえます。
親が元気なうちに片づけを始めておけば、粗大ゴミに出す費用などは親のお金で支払うことができ、子世代の処理費用の負担軽減にもつながります。
実家の片づけをスムーズに進めるための三か条
一か条…“すっきり片づいた家”ではなく“親が健康に暮らせる家”を目指す
親世代は“物には神様が宿っている”と考える方が多く、物は豊かさの象徴でもあり、なかなか捨てられない傾向にあります。
一方、子世代は、断捨離をしてすっきり片づいた家を目指しがち。そこで「夜中にトイレまで安全に行くために廊下を片付けよう」など、“親の健康や安全”を共通のゴールに設定すると親の理解を得やすくなります。
二か条…「親の基準」を尊重する
親が自分の意志で購入したものを、子が勝手に捨てたり片づけたりするのはNG。ケンカの原因になります。「いる」「いらない」の判断は親の基準を尊重しましょう。
三か条…「いる」「いらない」に迷ったら「一時保管箱」へ
親世代にとって物は豊かさの象徴なので、「いる?いらない?」と問うと、たいていの場合「いる」と答えるでしょう。
「いる」と即答するのではなく、答えるまでに「う~ん……」と少し迷っている場合は、「いる理由」を考えていることが多いもの。
「このあいだ着たから(実際には数十年前でも)、またいつか着るかも」とか「いつか、ひ孫が生まれたときに使うかも」などです。
その場合は、「一時保管箱」に移動させましょう。捨てるのではなく移動させるだけなので親も安心ですし、ケンカにならずにすみます。
半年くらい保管して使わなければ、なくても困らないもの。それがわかれば、親も処分の判断がしやすくなるでしょう。
「なくても困らないもの」を、リサイクルやフリマアプリに出して現金化するという提案をしてみるのもいいかもしれません。
また、自分が使っていた子供部屋を先に片づけて「一時保管部屋」にするのもおすすめです。「すっきりしたよ」とか「孫が来たときの遊び部屋にしよう」などと伝えれば、親の“片づけモチベーション”も上がるかもしれません。
収納方法は勝手に決めない
「いるもの」の“しまい方”にも注意しましょう。
シンプルな収納ボックスにジャンル別に物を分けて収納するなど、子世代の新しい収納法を押し付けても、それに慣れていない親世代にとってはしまうのが面倒になったり必要なときに物を取り出せなくなったりするため、逆に散らかることもあります。
「領収書や書類はクッキーの缶に入れる」が親の習慣であれば、それに従いましょう。また、日々必要なものは、「しまう」ではなく手に届く場所に「置いておく」方が、逆に散らからない場合があります。
親の前で言ってはいけない“片づけNGワード”
「捨てるよ!」
自分で決断して購入したものを「いらないでしょ?捨てるよ!」と言われると、親は自分を否定されたような気持ちに。
「すぐには必要なさそうだから、一時保管箱(部屋)に移動させよう」などと誘導しましょう。
「通帳どこ?」
大事な通帳や権利証を失くさないように、あるいは誤って捨てないために聞いていても、いきなりお金の話をされると親はショックを受けます。
片づけを進めながらいろいろな話をする流れで聞くとか、なぜ質問をしているかをきちんと伝えるなどしましょう。
片づけがうまく進まない場合は……
親自身が明らかに「使っていないから、いらない」と判断できる、“何十年も乗ってない自転車”や“ずっと使っていないミシン”を捨てるとか、玄関の外回りや庭木の手入れなど親が自分でできることから始めると進めやすくなります。
キッチンやエアコンなどは、クリーニングサービスに依頼するのもおすすめ。業者などの第三者が来るからと、事前にキッチンだけとかエアコン周りだけでも片づておくというケースはよくあります。孫や仲のいい親戚がしばしば集まるなどは、さらに効果的です。
実家の片づけは一気に進められるわけではありません
実家の片づけは、親と会話をしたり暮らしぶりを観察したりして、何を大切にしているのか、健康状態はどうかなどを確認しながら、ゆっくりと進めていくものという認識が必要。
実家の片づけは時間も体力もかかります。だからこそ、親が元気なうちに早めに始めることが大切です。
渡部亜矢さん/実家片づけアドバイザー(R)。一般社団法人実家片づけ整理協会 代表理事。少子高齢化社会に特化した「実家片づけアドバイザー(R)」の講座の開催やセミナー講師などを務めている。テレビや新聞、雑誌などでも活躍中。『60歳からの「紙モノ」整理』(青春出版社)、『モノ・部屋・人間関係全部スッキリ! 人生が整う 片づけの基本』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。