
9月13日(土)から21日(日)の9日間、世界中のトップアスリートが一堂に会する「世界陸上競技選手権大会」が34 年ぶりに 東京で開催されます。今回で20回目の節目となる同大会。東京・国立競技場を中心に熱戦が繰り広げられます。地元開催ということで日本人選手のメダルへの期待もかかる中、知っておくとより一層観戦が楽しくなるルールや基礎知識をご紹介します。
「世界陸上」ってどんな大会? なぜ始まった?

「世界陸上競技選手権大会(以下、世界陸上)」は、陸上競技としてはオリンピックと並ぶ世界最高レベルの大会で、2年に1度開催されています。日本での開催は、1991年の東京大会、2007年の大阪大会に続いて3回目となります。これは同一国での開催では最も多いのだそう。今回は約200か国から2000名近くのトップアスリートが参加します。
世界陸上の初開催は1983年のヘルシンキ大会。他の競技の世界大会と比較しても意外とその歴史はまだ浅いのです。
世界陸上が開催される前まで、陸上競技における世界的な大会はオリンピックしかありませんでした。しかし、オリンピックでは一部の女子種目が実施されていなかったことや、4年に1度だと記録のピークからずれてしまう選手がいることなどを理由に1970年代に入ると陸上関係者の間で世界大会開催を切望する声が高まります。
第2回大会までは4年に一度、オリンピックの前年に開かれていましたが、第3回の東京大会以降、2年に一度、オリンピックの前年と翌年の開催となっています。
谷口浩美の金メダルに朝原宜治の男泣き…記憶に残る名シーンも
数々の記録やスター選手の名勝負を生み出してきた世界陸上。みなさんの中にもそれぞれ記憶に残る選手やシーンがあるのではないでしょうか。 日本人選手の活躍に目を向けると、前回2023年のブダペスト大会で、やり投げの北口榛菜選手が日本人女子フィールド種目初の金メダルを獲得した快挙は、記憶に新しいところ。他にも男子マラソン・谷口浩美選手の世界陸上日本人初の金メダル獲得(1991年東京大会)や、男子400mで高野進選手の日本人初の決勝進出(1991年東京大会。このときの日本記録は以後32年間破られず)。また、男子4×100mリレー(2007年大阪大会)で朝原宣治、塚原直貴、高平慎士、末續慎吾の4選手が銅メダルを獲得し、朝原選手が見せた男泣きなど、今も語り継がれる数々の名シーンがあります。
果たして、今年の大会はどんなドラマが生まれるのでしょうか。 直前の大会で桐生祥秀選手が9秒台をたたき出した男子100mなどの花形種目のほかにも、競歩やリレーでも日本勢のメダルの期待が高まっています。今大会も世界記録が飛び出す可能性があり、目が離せません。
ここからは、今まで陸上競技にあまり興味がなかったという方も知っておくと観戦がぐんと楽しくなる基礎知識をご紹介します。
【基礎知識1】「トラック」「フィールド」「混成」「ロード」、4つの分類
陸上競技は短距離走や中距離走、ハードルなど競技場内の走路(トラック)で行われる「トラック競技」、走り幅跳びや砲丸投げといったトラック以外の場所で行われる「フィールド競技」、トラック競技とフィールド競技の両方から複数の種目を選び、それらの合計得点を競う「混成競技」、マラソンや競歩のように公道を利用する「ロード競技」に分けられます。世界陸上で行われる種目は次のとおりです。

■トラック競技
100m、200m、400m、800m、1500m、5000m、10000m、男子110mハードル、女子100mハードル、400mハードル、3000m障害物、4×100mリレー、4×400mリレー、
ハードルが男女で距離に差があるのには理由があります。ハードル種目ができた当時はヤード法が主流だったため、120ヤード(109.7m)ハードルとして誕生しました。その名残で男子は今も110mで実施されています。一方、女子のハードルはメートル法が広まってからできたため、男子と異なり100mで実施されています。
■フィールド競技

走高跳、棒高跳、走幅跳、三段跳、砲丸投、円盤投、ハンマー投、やり投
■混成競技
十種競技、七種競技
※十種競技と七種競技については【基礎知識2】で詳しく解説します。
■ロード競技
マラソン、競歩
上記の種目はオリンピックも同様に行われ、それぞれ男女で実施。ただし、十種競技はオリンピックと世界陸上では男子のみ実施されています。 ちなみに短距離系の競技は風の影響を大きく受けるため、公認記録にならないことも。200mまでの短距離走と跳躍の走幅跳と三段跳は、追い風が秒速2.0mを超えると記録は公認されず、参考記録となります。
【基礎知識2】実はすごい!注目したい“マイナー競技”3選
世界陸上で見ごたえがあるのは100mやマラソン、リレーばかりではありません。花形と言われる競技の裏で“濃すぎるドラマ”を秘めたマイナー競技の熱戦が繰り広げられているのを見逃していませんか。競技の面白さや驚きのルール——3つの注目競技を紹介します。
■1人で10種目も!? 驚異の万能選手が揃う「混成競技」

混成競技は「最強のオールラウンダー」を決める競技ともいえます。十種競技の順番はルールで決まっており、1日目は100m、走幅跳、砲丸投、走高跳、400mを、2日目は110mハードル、円盤投、棒高跳、やり投、1500mを実施します。
七種競技も十種競技同様に競技の順番はルールで決まっており、1日目は100mハードル、走高跳、砲丸投、200mを、2日目は走幅跳、やり投、800m実施。十種競技は女子もありますが、オリンピックや世界陸上では男子のみ行われます。
さまざまな種目を網羅する必要があるため「走・跳・投」のバランスが問われ、世界王者は「キング(クイーン)・オブ・アスリート」と呼ばれます。種目ごとにスパイクを変えるため5~6足持参する選手も。さらに棒高跳・やり・円盤など、道具の準備もあるため競技者というより「アスリート職人」と呼ばれることもあります。
これだけ多くの種目に挑むとなれば選手によって得意・不得意があるため、種目ごとの記録を点数に換算する中で「得意種目で大逆転!」ということもあり得るのが、この種目の醍醐味。最後まで目が離せないのも納得です。
■「コースに水たまり?」陸上なのにびしょ濡れの「3000m障害」

障害物を28回、水濠を7回飛び越えるハードな競技。障害物の高さは男女とも400mハードルと同じ高さになっています。障害を飛び越える際は手をかけてもOKですが、外側を通ったり、下をくぐったりすることは禁止されています。
そもそもなぜこのようなハードな競技が生まれたのでしょう。
19世紀のイギリスでは、学生たちが牧場の塀や水たまりなどを越えながら長距離を走る障害物レースを行っていました。このレースがやがて陸上競技場でも再現されるようになり、名残として水濠が取り入れられたと言われています。
陸上競技で水濠の障害があるのは、この競技だけ。競技中、選手たちが水濠に飛び込んでびしょ濡れで奮闘している姿を見ると「水濠はなくてもいいのでは?」と思ってしまうのですが、これにもちゃんと意味があるのです。
水濠はハードル競技とは違う「リアルな障害」を再現するためのもの。深さは最も深いところで約70㎝あり、深さによって体力の消耗が大きくなります。さらに地面がぬれていて滑りやすかったり、着地の衝撃があったりと「走る技術」だけでなく「バランス感覚」「持久力」「跳躍力」「集中力」などが求められます。
3000m障害はまさに、総合力が試される競技なのです。
■ゴールの歓喜が一瞬で絶望に。実は陸上競技で最も過酷な「競歩」

“走るな”というルールがありながら、誰よりも速く進まねばならない「競歩」。ルールが厳格に定められており、陸上競技の中でもっとも失格者が多い競技です。
厳しい競歩のルールは……
「常に片足が地面に接していなければならない(浮いてはいけない)」
「前脚の膝は接地の瞬間から地面と垂直になるまでまっすぐに伸びていなければならない」
の2つ。
コースの随所(50~100m間隔)に審判がおり、目視で違反がないかをチェック。違反が確認されれば選手にイエローパドル(注意)が提示され、違反を改善するように促されます。それでも違反が改善されない場合、審判はレッドカードを本部に提出。レッドカード合計3枚で失格となってしまいます。
さらに厳しいのが、自分に一体何枚のレッドカードが出されているのかを知らぬまま競技を続けねばならないこと。そのため、せっかく終盤にラストスパートをかけたのに、ゴール後に失格を告げられることもあります。レース自体もですが、こういったルールの厳しさも「最も過酷な競技」と呼ばれる所以となっています。
ゴールの歓喜が一瞬で絶望に変わる――。肉体よりも精神を削られる競技とも言える競歩は、知れば知るほど心から選手を応援したくなる競技です。
【基礎知識3】何をすると失格?ルールのポイントを解説

陸上競技は各種目でルールが定められています。「フライングしてはいけない」「ラインから出てはいけない」といった基本的なルールはわかっていても、中には「何がいけなかったの?」「これで失格?」と判定にモヤモヤするシーンもありますよね。
基本的に失格となるのは「フライング」「コース逸脱」「他の選手の妨害」「不正装備(禁止された装置やシューズの使用)」「ドーピング」「指定時間にスタートしない」といったケース。競技ごとにルールのポイントを知っておきましょう。
■短距離走
400mまでは、クラウチングスタートで行われます。2010年からフライングのルールが改正され、世界陸上などワールドアスレティクス(WA)主催大会では、混成競技以外のトラック種目では1回目のフライングで失格となります。1回のミスも許されないとは、緊張感が走りますね。
■中距離走
800mは最初の100mをセパレートレーンで走り、残りはオープンレーンで競います。押し合いや接触での妨害は失格に。
■リレー
バトンパスは20mのゾーン内で行わないと失格。バトンを落としても基本的には失格ではありませんが、拾うのは自分たちで行う必要あり。 他チームの走者の進路を妨害すると即失格となります。
■ハードル種目
競技中に脚に当たるなどしてハードルを倒してしまうこと自体は失格の対象にはなりません。ただし、故意に倒した場合は失格となります。また、他の選手への妨害をしていなければ、足または脚がハードルの自分のレーンの外側に出ても失格にはなりません。
■跳躍種目や投てき種目
踏切板を越えた踏み切りや、サークル、ラインから出た場合は失格。「記録なし」が3回で競技終了。
今からでも間に合う!“推し”を見つけて東京大会を楽しもう
いかがでしたか?マラソンなど東京大会に出場する日本代表選手の一部は既に発表されていますが、参加標準記録突破者が続々と登場し注目を集める男子100mやリレーの代表はこれから発表予定。8月27日(水)にワールドアスレティックス(WA)による出場資格者の公表後、9月1日(月)以降に第2次日本代表選手の発表が行われます。
※日本代表選手の最新情報は「日本陸上競技連盟公式サイト」をチェック!
普段はあまり陸上競技に関心はなかったという方も、世界のトップアスリートが集う今年はぜひインターネットやSNSで“推し”を見つけて応援してみませんか? 世界記録が誕生する歴史的な瞬間に立ち会えるかもしれません。
【参考サイト】
・世界陸上東京大会公式サイト
・TBS世界陸上特設サイト
・日本陸上競技連盟公式サイト