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氷上に刻んだ「一蓮托生」の絆 ― 日本女子団体パシュート、宿敵を打ち破り掴んだ涙の銅メダル

氷上に刻んだ「一蓮托生」の絆 ― 日本女子団体パシュート、宿敵を打ち破り掴んだ涙の銅メダル

高木美帆(たかぎ みほ)選手、佐藤綾乃(さとう あやの)選手、堀川桃香(ほりかわ ももか)選手、そして野明花菜(のあけ かな)選手で構成された日本チームは、ミラノ国際大会スピードスケート女子団体追い抜きにて、見事銅メダルを獲得。前大会の悔しさを糧に、緻密な戦略と究極の連携を磨き上げ、3位決定戦を制して、再び世界の表彰台へと返り咲きました。


■プロフィールと基本情報:ミラノを駆けた三人の戦士

今回のメダル獲得に貢献した主要メンバーの構成は、経験と勢いが見事に融合した理想的な布陣でした。

選手名所属特徴・役割
高木 美帆(たかぎ みほ)TOKIOインカラミ精神的支柱であり、全ラップをコントロールする世界最高の牽引力。
佐藤 綾乃(さとう あやの)ANAどんな局面でも隊列を乱さない安定感と、食らいつく不屈の根性。
堀川 桃香(ほりかわ ももか)富士急行豊富なスタミナを誇る長距離のホープ。後半の失速を防ぐキーマン。
野明花菜(のあけ かな)立教大学両親共に元スピードスケート選手。3位決定戦で堀川選手に変わって初出場。

■来歴:黄金時代から試練の時を越えて

日本女子パシュートの歴史は、まさに「進化と継承」の歴史です。

  • パイオニアたちの挑戦: かつては個々の力で勝るオランダなどの強豪国に歯が立ちませんでしたが、2010年代半ばから日本独自の「先頭交代システム」を確立。先頭を入れ替えつつも、後ろの選手が前の選手の風除け(スリップストリーム)を完璧に利用する技術を磨きました。
  • 頂点と、あまりにも残酷な試練: 2018年大会で金メダルを獲得し、世界にその名を轟かせた日本チーム。しかし、連覇を狙った2022年大会では、ゴール直前での不運な転倒により銀メダル。勝利確実と思われた中での悲劇は、選手たちの心に深い傷を残すと同時に、「もう一度、自分たちの手でメダルを」という強い決意を芽生えさせました。
  • 世代交代の波: ベテラン選手が去る中、高木美帆選手を中心に、堀川選手ら若手が急成長。個人の走力だけでなく、「三人で一つの生き物のように滑る」というパシュートの原点に立ち返り、ミラノへの準備を進めてきました。

■これまでの主要大会での実績

ミラノ大会に向けたこの4年間、日本は常に世界のトップ3を争い続けてきました。

  1. ワールドカップシリーズ: カナダ、オランダ、ノルウェーといった強豪と、毎大会100分の1秒を争う接戦を展開。特に標高の高い高速リンクでの適応力を高めました。
  2. 世界距離別選手権: メンバーを入れ替えながら、最適な組み合わせを模索。新戦力の堀川選手がトップスピードに乗った際、いかに隊列を崩さないかのシミュレーションを繰り返しました。
  3. 2025-26シーズン W杯プレ大会: 本番会場となるミラノの氷質を徹底分析。コーナーの出口での加速タイミングを合わせ、銅メダルへの確かな手応えを掴んでいました。

■技術とパフォーマンスの分析:日本独自の「シンクロ・スケート」

日本のパシュートが、体格で勝る欧米諸国と対等に渡り合える理由はその「技術」に集約されます。

1. 究極の「一列縦隊」

前の選手の腰に手を当てるほどの間隔を保ち、三人が一つの流線型を作ります。これにより空気抵抗を極限まで削減。最後尾の選手は、先頭の選手に比べて約20〜30%ものエネルギーを温存できると言われています。

2. ロスのない「先頭交代」

通常、先頭が入れ替わる瞬間にスピードがわずかに落ちますが、日本はコーナーを回る遠心力を利用して、流れるように順位を入れ替えます。ミラノ大会では、この交代時のタイムロスが全出場国中、最も少ない数値を記録しました。

3. 「三人同時のゴール」という思想

パシュートは「最後尾の選手がゴールしたタイム」で競われます。日本は一人が飛び抜けるのではなく、疲弊した選手を二人が後ろから押すような「プッシュ技術」を駆使。三人がほぼ同時にゴールラインを切る美しさは、世界から「芸術」と称賛されました。


■出場種目と今大会のライバル

【種目:スピードスケート女子団体追い抜き】

ミラノ大会、決戦の日は冷え込み、氷は非常に硬く締まった「高速仕様」となっていました。

氷上の強敵たち

  • カナダ代表:金メダル
    個々の走力が極めて高く、北京大会の金メダリストチーム。今大会も盤石の強さを見せました。
  • オランダ代表:銀メダル
    圧倒的なパワーで前半からタイムを稼ぐ攻撃的なスタイル。準決勝ではわずか0秒11差で日本を上回りました。
  • アメリカ代表:今大会のアメリカは、短距離・中距離のスペシャリストを揃え、前半から一気にスピードに乗って押し切る戦術が得意。

銅メダルへの激走

準決勝のオランダ戦では、抜きつ抜かれつのシーソーゲームながら惜しくも敗れた日本。気持ちを切り替えて臨んだ3位決定戦の相手は、勢いに乗るアメリカでした。

真ん中を滑る今大会が初出場となる野明選手がよろけるシーンがあったものの、高木・佐藤の両選手のサポートが功を奏して徐々に突き放し、最終的には3秒50の大差をつけて貫禄の銅メダルを獲得しました。

また、高木選手はこれにより個人では通算10個目となるメダルを獲得し、3位入賞に華を添えました。


■メダル獲得の最大の要因:挫折を力に変えた「信頼の再構築」

日本がミラノで銅メダルを掴めた最大の要因。それは「個の成長を、チームの和に完全に還元できたこと」です。

北京大会での転倒以降、選手たちは「誰かのミス」を責めるのではなく、「誰が転んでもカバーできる強さ」を求めました。高木選手は個人の多種目出場という過酷なスケジュールの合間を縫い、若手とのコミュニケーションを絶やしませんでした。

佐藤選手は怪我を乗り越え、堀川選手は先輩たちの背中を見て、パシュートに必要な「献身」を学びました。

ゴール後、三人が氷の上で手を取り合い、涙を流しながら笑顔を見せたあの瞬間。それは、4年前の悪夢を完全に振り払い、新しい日本女子パシュートの時代が始まったことを告げる、最高のファンファーレでした。


日本女子団体パシュートチームの皆さん、銅メダル獲得、本当におめでとうございます!

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