現在、陸上競技 女子1500m、3000m、5000mの日本記録は、3種目とも田中希実選手が持っている記録です。世界大会でも入賞し始め、まさに中長距離界の期待の星です。
田中選手の最大の魅力は他の追随を許さないラストスパートです。ラスト1周は、それまで走ってきた距離を忘れさせるほどすごいスピードを出し、そのままゴールまで駆け抜けます。
今回はラストスパートで田中選手のフォームがどのように変化しているのか、末尾の動画をもとにフォームについて解説します。
ピッチが大幅アップ
2022年の日本選手権女子5000m決勝の走りを例に、田中選手のラストスパートを深堀します。
ラストスパート準備段階の4200m地点の走り方と、ラストスパート中となる4900m地点のデータを比較します。
- 走速度(分/km)4200m地点:3.06 → 4900m地点:2.46
- ピッチ(歩/分)4200m地点:206 → 4900m地点:226
- ストライド(cm)4200m地点:158 → 4900m地点:167
ピッチもストライドも両方増加していますが、特にピッチは約10%と大幅アップ。5000m終盤とは思えないほどのペースアップは、このピッチの上昇が大きく貢献していると考えられます。
フォームの変化
4200m地点と4900m地点のフォームの違いは大きく以下の3点です。
- ・肘を大きく引いている
- ・骨盤が前傾する
- ・上下動が少なくなる
それぞれについてみていきましょう。
肘を大きく引く
肘を大きく引くことで、脚を力強く振り出すことができ、さらには地面に大きな力を伝えることができます。ラストスパートに必要な地面反力を作るためと考えられます。
骨盤が前傾
ラストスパート中の方が骨盤が前傾しており、地面に力を伝えやすい姿勢になっています。ここからも、地面反力をさらに増強させていることが分かります。
この地面からの力をうまく使って、離地後の膝の角度を小さくして折りたたみ、慣性モーメントを小さくして、振り戻しスピードを高めていると推測できます。これがピッチを大幅にアップさせる秘訣です。
上下動が少なくなる
頭の高さが、ラストスパート中ではほとんど上下しません。ラストスパートまでの走り方では、滞空時間を長くしてリラックスし、できるだけ体力温存させているのに対し、ラストスパートでは地面反力を垂直方向ではなく、進行方向に強く発揮していると思われます。
できるだけ地面から力をもらい、それを余すことなく進行方向の力へと変える、この意識がラストスパートに繋がっているのでしょう。田中選手のように厳しいトレーニングを積んでいるからこそできることですが、どれか1つでも取り入れられるものがあれば、試してみてください!
そして、これからの田中選手に期待です!それでは動画をご覧ください。