陸上競技の中でも100m走は花形です。近年では日本国内のレベルも非常に上がってきています。100m国内トップ選手と言えば、日本人初の9秒台を出した桐生祥秀選手、現在の日本記録保持者である山縣亮太選手、世界陸上で日本人初の決勝進出を果たしたサニブラウン・アブデル・ハキーム選手。そして、追い風参考ですが桐生選手よりも実は先に9秒台を出していた、世界にも通用するロケットスタートの技術を持つ多田修平選手です。
多田選手は2017年の世界陸上で、世界最速の男、ウサイン・ボルト選手の隣のレーンで走り、中盤までボルト選手に先行する走りを見せて話題になりました。多田選手のロケットスタートは世界でもトップレベル。そのロケットスタートを実現できる秘訣について、末尾の動画をもとに解説します。
深い前傾を可能にしているのは腸腰筋の強さ
多田選手はスタート時の前傾が非常に深いことで有名です。深い前傾姿勢では、足を引き付ける力が強くないと、足が後ろに流れやすくなります。足が流れてしまうと当然スピードには乗れません。
足を引き付けるための腸腰筋の強さとそれを60m付近までもたせる筋持久力、足の使い方の巧みさが多田選手に備わっているからこそ、深い前傾姿勢でもしっかり身体を前に運ぶことが可能になっているんです。
脊柱のコントロールの精度が高い
多田選手のロケットスタートを可能にしているのは腸腰筋の強さだけではありません。もう1つ最も重要なのは脊柱のコントロールです。
前傾でスタートした後、60m前後でだいたいどの選手もトップスピードになります。トップスピードになる頃には身体は起き上がって、上半身はほぼ地面と垂直になります。この前傾から垂直になるまでの身体の起こし方の精度が、多田選手は非常に高いんです。
背骨は首の高さにある「頚椎」と、胸の高さにある「胸椎」、腰の高さにある「腰椎」の3つに分かれます。以前は、腰→胸→首の3段階くらいに分けて身体を起こしていましたが、さらに進化して、最近では7〜8段階くらいに細分化して身体を起こしてきているように見えます。これは背骨をより細分化して意識できているからこそできることです。
背骨は細かい骨が積み重なってできています。頚椎は7個、胸椎は12個、腰椎は5個の骨からなり、可動域は大きくはないですが、1つ1つの骨の間は関節として動きが出ます。つまり、背骨には23個の関節があることになります。
この関節をどこまで細分化して認識できているかで背骨のコントロールする能力が決まります。多田選手はこの能力が非常に優れていると考えられます。
この能力を伸ばすためには、まず寝転がった状態で行うレッグレイズという腹筋の要領で足を上げていき、腰や胸まで床から浮かせてみましょう。この時に、今背骨のどこまで床についているかを認識しながら足を上げていくということを行ってみてください。徐々に背骨1つ1つがどの辺りにあるのかが身体で分かるようになってくると思います。また、どの部分が動かしづらいかも確認できます。
この背骨をコントロールする能力は陸上競技だけでなく他の競技でも活かせる能力です。是非意識してみてください!そして、前傾角度や身体の起こし方にも注目しながら、多田選手を応援しましょう!