
第108回全国高校野球選手権大会 準決勝
健大高崎(群馬) 1-0 天理(奈良)
2026年8月20日、第108回全国高校野球選手権大会準決勝。
天理は健大高崎に0-1で敗れ、1990年以来36年ぶりとなる夏の決勝進出を逃した。先発・長尾 亮大(ながお りょうた)は初回に1点を失ったものの、その後は追加点を許さず8回136球を完投。しかし打線が健大高崎の4投手リレーを攻略できず、エースの力投に応えられなかった。
試合は初回から動いた。健大高崎は1死一、二塁の好機を作ると、4番・佐藤 麻恩(さとう まおん)が長尾の球を右前へ運び、二塁走者が生還して1点を先制した。長尾はその後立ち直り、2回以降は得点を許さない。しかし天理打線も佐藤を攻略できず、0-1のまま終盤へ。長尾は8回まで136球を投げ、わずか1失点で試合を作り切った。
健大高崎は8回途中まで佐藤が2安打無失点。そこから北田 莉玖(きただ りく)、石田 翔大(いしだ しょうた)へ継投し、9回2死満塁の最大のピンチでは石垣 聡志(いしがき そうし)を投入。天理は最後まで同点打を狙ったが、石垣が空振り三振で締めた。健大高崎が1-0で逃げ切り、夏の甲子園では初となる決勝進出を決めた。
天理 ― 長尾を中心に4強まで進撃
甲子園2回戦では福山を7-2。金本 相有(かねもと さんゆ)の先制本塁打に加え、6回の集中打で突き放し、長尾が13奪三振で完投した。3回戦の高川学園戦は0-3から6回に4点を奪って6-3と逆転。長尾は158球を投げ切った。準々決勝では三重を7-0。今大会初先発の橋本 桜佑(はしもと おうすけ)が粘投し、金本の大会2号などで9年ぶりの4強進出を決めた。
長尾は福山戦、高川学園戦で2試合連続完投。特に高川学園戦では序盤に3点を失いながら崩れず、打線の逆転後は得点を許さなかった。準々決勝は橋本にマウンドを託して休養。エースとして十分な回復期間を得た状態で、健大高崎との準決勝に臨んだ。
健大高崎 ―“1-0”を勝ち切る強さ
甲子園1回戦は八幡商に7-1。2年生・石垣が11奪三振で完投した。2回戦では東海大甲府を1-0で破り、佐藤が6回無失点に加えて決勝打。3回戦は佐野日大を4-1。準々決勝の有明戦では石垣が延長10回5安打完封し、石田 雄星(いしだ ゆうせい)のサヨナラ内野安打で1-0。接戦をものにする力を磨いて準決勝へ進んだ。
勝負を決めた1打 ― 佐藤麻恩、初回先制が殊勲の決勝点
勝敗を分けたのは健大高崎の4番・佐藤麻恩だった。初回1死一、二塁、試合開始直後で長尾がまだ完全にリズムをつかむ前に初球を捉え、右前適時打。結果的にこれがこの試合唯一の得点となった。投げても佐藤は先発として8回1死まで2安打無失点。自ら奪った1点を自ら守る、文字通りの二刀流の活躍だった。
長尾にとって悔やまれるのは、その初回だけだった。2回以降は健大高崎打線に追加点を与えず、味方の反撃を待ち続けた。しかし「1点で十分」という試合展開を作った佐藤と健大高崎投手陣が上回った。1球、1打席の重みがそのまま勝敗につながった準決勝だった。
最大のハイライト ― 9回2死満塁、天理最後の反撃もならず
最大のハイライトは9回裏。天理は0-1のまま2死満塁まで健大高崎を追い詰めた。一打出れば同点、長打なら逆転サヨナラという場面。健大高崎はここで2年生エース・石垣聡志を投入した。甲子園全体の空気が天理の反撃へ傾く中、石垣は最後の打者を空振り三振。長尾の136球を勝利に変える最後の一本は、ついに生まれなかった。
前戦で有明を10回完封した石垣を「最後の1アウト」だけに投入した健大高崎の投手起用も鮮烈だった。佐藤、北田、石田翔、石垣という4投手継投での完封は甲子園史上初と報じられており、天理打線の長所を継投で消し続けた試合でもあった。
天理で光った3選手
長尾 亮大(ながお りょうた)
3年/背番号1/投手
最速140キロ台の直球にスライダー、チェンジアップなどを織り交ぜ、打者のタイミングを外す完成度の高い右腕。福山戦13奪三振、高川学園戦158球完投と、今大会の天理をけん引した。この準決勝でも8回136球を投げて失点は初回の1点だけ。2回以降は崩れず、最後まで逆転可能なスコアを維持した。
一方、勝敗という観点では初回の入りが唯一の悔いとなった。1死一、二塁で佐藤に右前適時打を許し、その1点が決勝点。以降を完全に立て直しただけに、先制点を防げなかったことが重く残った。それでも136球で追加点を許さなかった投球は「敗戦投手」という言葉だけでは表せない内容だった。
金本 相有(かねもと さんゆ)
3年/背番号6/遊撃手・主将
天理の4番で主将。175センチ70キロながらパンチ力に優れ、奈良大会では打率5割、甲子園では福山戦と三重戦で本塁打を放った。大会を通じ、先制点や流れを変える長打を繰り返してきた攻撃の中心。守備では遊撃を任され、長尾を支える内野陣の要でもあった。
しかし準決勝では、健大高崎の継投によって持ち味の長打力を封じられた。天理は3試合連続で二桁安打を記録していたが、この日は佐藤らの前に沈黙。4番の前後で走者をため、金本の一振りで一気に返す従来の攻撃パターンを作らせてもらえなかったことが大きな敗因となった。
小澤 典弘(おざわ のりひろ)
2年/背番号2/捕手
2年生ながら正捕手を任され、長尾の多彩な変化球を生かす配球と安定したキャッチングが持ち味。福山戦では9回に適時打を放つなど打撃でも貢献してきた。この準決勝では、初回に失点した長尾を落ち着かせ、2回以降を無失点へ導いたリードが光った。投手戦を最後まで成立させた陰の功労者だった。
一方、攻撃面では健大高崎投手陣の前に得点へ絡む仕事を果たせなかった。下位打線から出塁し上位へつなぐ形を作れば天理らしい攻撃になったが、その連鎖を分断された。捕手としては1失点に抑えただけに、攻撃で援護できなかったことが悔やまれる。
健大高崎で光った3選手
佐藤 麻恩(さとう まおん)
3年/背番号3/投手・一塁手
左打ちの4番でありながらマウンドにも上がる二刀流。東海大甲府戦でも6回無失点と決勝打を記録しており、「自分で投げて自分で点を取る」能力が最大の特徴だ。天理戦では初回に右前適時打を放って先制。投手としても8回1死まで2安打無失点、96球。準決勝の攻守を一人で支配した。
終盤は走者を許し、完封を一人で成し遂げることはできなかった。それでも無理に続投せず、北田らへつなぐことで天理に的を絞らせなかった点もチームの強さ。長尾との投手戦で「先に1点を取る」「その1点を守る」という二つの役割をほぼ完璧に遂行した。
石田 雄星(いしだ ゆうせい)
3年/背番号8/中堅手・主将
右投げ左打ちの俊足巧打の外野手で、2番打者としてバント、走塁、強攻を使い分ける主将。準々決勝の有明戦では延長10回に二塁へのサヨナラ内野安打を放ち、チームを初の夏4強へ導いた。天理戦でも上位打線の一員として初回の先制機を作る攻撃に関わり、佐藤へ好機をつないだ。
自身が決勝打を放った前戦とは異なり、この日は派手な打撃結果こそ残せなかった。それでも健大高崎が得意とする「走者を置いて4番へ回す」攻撃の流れに関与。長尾から大量点を狙わず、1点を確実に奪う姿勢が、主将らしいチームへの貢献だった。
石垣 聡志(いしがき そうし)
2年/背番号1/投手
182センチ83キロの右腕。140キロ超の直球にカットボールや緩い変化球を組み合わせる2年生エースだ。八幡商戦で11奪三振完投、準々決勝では有明を延長10回5安打完封。天理戦では登板機会が最後までなく、9回2死満塁という最も厳しい場面で投入された。
一打逆転サヨナラの状況でも動じず、最後の打者を空振り三振。わずかな登板時間ながら、試合の最重要アウトを奪った。先発で長く投げるだけでなく、「最後の1人」にも対応できる点が強み。有明戦の10回完封とは正反対の役割を果たし、健大高崎の投手層の厚さを象徴した。
采配 ― 健大高崎が4投手、エースをクローザーに送る異例采配
試合を大きく動かしたのが健大高崎の継投だった。佐藤を8回途中で降ろし、北田莉玖、石田翔大、最後は石垣聡志まで投入。9回2死満塁でエースを「クローザー」として使う異例の采配が的中した。4投手による完封リレーは甲子園史上初と報じられている。
天理側は準々決勝で長尾を休ませ、準決勝では満を持してエースを先発させた。起用プラン自体は成功し、長尾は8回1失点。つまり天理の敗因は投手起用ではなく、健大高崎の投手交代に最後まで対応できなかった攻撃面にあったといえる。
戦評 ― 長尾亮大が最後まで守った「1点差」の名勝負
長尾亮大の最後の夏は、0-1という残酷なスコアで終わった。
初回に佐藤麻恩へ許した1本。それ以降、健大高崎にはホームを踏ませなかった。8回136球、失点1。エースとして「味方が1点取れば流れが変わる」という状況を最後まで守り続けた。
福山戦では13奪三振完投。高川学園戦では158球を投げ抜いて3点差を跳ね返す逆転勝ちを支えた。奈良大会決勝では完封。天理の9年ぶり4強進出は、間違いなく背番号1の右腕が作ったものだった。
最後は健大高崎の4投手リレーに打線が封じられるも、1点を失った後にもう1点を許さなかった長尾の姿は、この夏の天理を象徴していた。
勝者と敗者を分けたのは、わずか1点。しかしその1点の裏側には、長尾亮大が136球に込めた執念があった。





