
第108回全国高校野球選手権大会 準決勝
智辯和歌山(奈良) 7-1 横浜(神奈川)
2026年8月20日、第108回全国高校野球選手権大会準決勝。横浜は初回に先制したものの、智辯和歌山が3回に4得点を奪って逆転。5番・楠本 龍生(くすもと りゅうせい)がエース・織田 翔希(おだ しょうき)の152キロ直球を右翼席へ運ぶ決勝3ランを放った。横浜は1-7で敗れ、28年ぶりの夏の決勝進出はならなかった。
横浜は1回表、川上慧の適時打で1点を先制。しかし智辯和歌山は3回裏、山田 凜虎(やまだ りとら)の適時打で1-1に追いつくと、なお無死二、三塁で楠本が織田の152キロ直球を右翼席へ。3ランで4-1と逆転した。織田はこの回途中、2回1/3で降板。その後は小林 鉄三郎(こばやし てつさぶろう)が好救援したものの、7回に智辯和歌山が3点を追加して7-1と突き放した。
智辯和歌山は14安打を放ち、2021年以来5年ぶりの決勝進出。横浜は大会屈指の攻撃力を誇ったが、この日は初回の1点だけに終わった。
横浜 ― 神奈川を圧倒してつかんだ22回目の夏
神奈川大会は湘南工大付7-0、住吉11-0、東海大相模8-1、三浦学苑12-0、市ケ尾11-4、慶応4-0、決勝・桐光学園11-1。7試合すべて4点差以上という圧倒的な内容だった。織田は大会初戦で左足首に打球を受けるアクシデントもあったが復帰し、強豪・東海大相模戦では153キロを連発した。
甲子園では沖縄尚学を7-2、日南学園を10-1、霞ケ浦を5-2、花巻東を6-0で撃破。日南学園戦では織田が無死満塁を三振と併殺で切り抜け、球場表示156キロを記録。準々決勝の花巻東戦でも123球、7安打、10奪三振で完封し、18年ぶりの4強へ導いた。
智辯和歌山 ― 接戦続きの県大会から打線が覚醒
和歌山大会は那賀6-0、田辺7-6、市和歌山2-0、和歌山工8-1、決勝・耐久4-3。田辺戦、決勝と1点差ゲームを制し、3年連続29回目の夏を決めた。山田 凜虎(りとら)、楠本らの打線と、和気 匠太(わき しょうた)、久葉 亮太(くば りょうた)、長井 心海(ながい しんかい)ら厚い投手陣が接戦で力を発揮した。
甲子園は社を2-1、敦賀気比を延長11回7-3、準々決勝では仙台育英を18安打11-3で圧倒。社戦では楠本の三塁打から先制し、敦賀気比戦では川原一将が8回の同点打と11回の勝ち越し打。大会が進むほど打線が上向き、横浜戦を前に強打が完成形へ近づいていた。
勝負を決めた一打 ― 楠本龍生、152キロを真正面から仕留める
勝負を決めたのは智辯和歌山の5番・楠本龍生。3回裏、1-1の無死二、三塁で織田の152キロ直球を狙い撃ちし、右翼席へ大会第7号となる勝ち越し3ランを放った。智辯和歌山は織田対策として前日に170キロ超の打撃マシンを使用。その準備が、甲子園最速級の直球を打ち返す一発につながった。
今大会、織田は156キロを計測し、日南学園戦では無死満塁を力でねじ伏せた。そんな右腕に対し、楠本は変化球を待つのではなく直球一本に照準を合わせた。速球で相手を圧倒してきた織田が、その最大の武器を打ち返された瞬間こそ、この準決勝最大のハイライトだった。
横浜で光った3選手
織田 翔希(おだ しょうき)
3年/背番号1/投手
186センチ81キロの本格派右腕。最大の武器は150キロ台中盤の直球で、日南学園戦では156キロを記録した。この準決勝でも150キロ台を連発したが、2回1/3を8安打4失点。特に楠本に152キロを3ランとされ、これまで相手を圧倒してきた「力」が智辯和歌山には通用しなかった。
準々決勝では花巻東を123球で完封しており、中1日の休養を挟んでの登板だった。前日の調整では体の張りをほぐすためノースロー。準決勝で故障したとの報道はなく、相手が高速マシンまで用意して直球を徹底対策したことが、早期降板につながったと見るべきだろう。
川上 慧(かわかみ けい)
2年/背番号5/三塁手
179センチ79キロ、右投げ左打ち。選球眼と広角に打ち分ける打撃が持ち味。この日は1回に適時打を放ち、横浜に理想的な先制点をもたらした。織田を援護する最高のスタートだったが、その後は和気を中心とした智辯和歌山投手陣に打線を分断され、追加点につなげることができなかった。
小林 鉄三郎(こばやし てつさぶろう)
2年/背番号11/投手
織田の後を受けた2年生左腕。3回途中から登板し、強打の智辯和歌山を中盤3イニングにわたって抑え、崩れかけた試合を立て直した。4-1のままなら横浜打線に逆転の可能性を残せただけに貢献度は高い。一方、チームとしては7回に再び3点を失い、小林の粘投を反撃へつなげられなかった。
智辯和歌山で光った3選手
楠本 龍生(くすもと りゅうせい)
3年/背番号4/二塁手
173センチ75キロ、右投げ左打ち。長打力と勝負強さに加え、二塁守備も安定する中軸。この日は3回、織田の152キロを右翼席へ運ぶ決勝3ラン。7回にも適時打を放ち計4打点を記録した。社戦でも三塁打から先制点を演出しており、大舞台で長打を生み出す能力を改めて示した。
和気 匠太(わき しょうた)
3年/背番号1/投手
182センチ90キロの右腕。力任せではなく、直球と変化球をコースへ集める安定感が特徴だ。初回に先制点を許したものの、その後は強力な横浜打線を封じ、8回1失点の好投。今大会は準決勝終了時点で19回、自責点1。織田との投げ合いで「速さ」ではなく制球と試合運びの完成度を示した。
山田 凜虎(やまだ りとら)
3年/背番号2/捕手
176センチ81キロの4番捕手。強い打球を広角へ放つ打撃と、投手陣をまとめるリードが魅力。3回、織田から同点適時打を放って反撃の口火を切り、直後の楠本3ランへつないだ。自ら得点を動かすだけでなく、和気をリードして横浜を1得点に封じた点でも大きく勝利へ貢献した。
「活躍できなかった」ポイントが勝敗を分けた
横浜は小野 舜友(おの しゅんすけ)、江坂 佳史(えさか よしふみ)、千島 大翼(ちしま たいよう)ら大会を通じて好調だった打線が、和気らの前で初回以降沈黙。特に日南学園戦で満塁本塁打を放った江坂など、長打で一気に試合を動かす攻撃を封じられた。逆に智辯和歌山は織田の最大の武器である150キロ台の直球を恐れず振り抜き、「速球で押し切る」という横浜の勝ちパターンを崩した。
リプレー検証 ― 8回、横浜の走者がアウトに
8回表、6点を追う横浜は先頭・小野が二塁打を放ち反撃を狙った。さらに走者を進めたい場面で塁上のプレーが一度セーフと判定されたが、智辯和歌山がリプレー検証を要求。映像確認の結果、判定はアウトへ覆り、横浜は貴重な走者を失った。大差がついた後とはいえ、終盤の反撃機運を断つ重要な判定だった。
また最大の想定外は、織田の早期降板だった。前戦では花巻東を完封し、今大会を代表する投手として準決勝を迎えたが、3回途中でマウンドを譲った。負傷による降板ではなく、8安打4失点という智辯和歌山打線の徹底攻略を受けての交代だった。
戦評 ― 織田翔希の「速さ」を智辯和歌山が真向から打ち崩す
織田翔希の2026年夏は、甲子園の記憶に残るものだった。
日南学園戦。無死満塁で登板し、156キロの直球で三振を奪う。続く打者を併殺。準々決勝では花巻東を123球で完封――。「打てない速球」を武器に、横浜を18年ぶりの4強まで運んだ。
しかし準決勝、智辯和歌山はその速球から逃げなかった。
170キロ超のマシンで準備し、山田が同点打。そして楠本が152キロを右翼席へ運んだ。
織田が突然力を失ったのではない。最後の相手が、最大の武器を打つための準備を徹底してきた。その意味でこの試合は、「怪物右腕が崩れた試合」ではなく、怪物右腕を打ち崩すための準備を智辯和歌山が実らせた試合だった。





