陸上競技 男子100mの日本記録はここ数年で数回更新されています。
1998年 伊東浩司さんが10秒00の当時の日本記録を出して以降、20年近くこの記録は更新されずにいました。100mにおいて10秒の壁は厚く、なかなか突破できる選手がいない中、静寂を破ったのは、2017年、当時東洋大学の学生だった桐生祥秀選手。9秒98と、日本人で初めて9秒台の記録を出します。
そしてその後、2019年にサニブラウン・アブデル・ハキーム選手が桐生選手の記録を0.01秒上回る9秒97を、さらには2021年、現在の日本記録である9秒95という記録を山縣亮太選手が出し、近年では約2年に1度のペースで日本記録が更新されてきました。
日本記録が頻繁に更新されるということは日本人選手の層が厚くなっている証拠です。国際大会でも決勝の舞台に日本人の名前が挙がるようになってきたことは、陸上ファンとして非常に嬉しいですね。
素晴らしい選手がたくさんいますが、今回は山縣亮太選手の強さの秘訣について末尾の動画をもとに解説します。
ミスター逆境 2019~2020年苦難の2年間
現在、山縣選手はセイコーに所属しており、セイコーのサイトでは「ミスター逆境」の文字が何度か使われています。なぜミスター逆境なのかというと、2019〜2020年の間、山縣選手はケガと病気に非常に悩まされていたからです。
2019年の背中痛に始まり、その年に肺気胸を発症、その後走り方の見直しなどのためにアメリカで合宿を行うも右足首の靭帯断裂で全治3か月と診断されます。2020年は右膝痛が発生し、日本選手権を2年連続で欠場しています。
思うような練習ができなかったこの2シーズン、悔しさや焦りなど、色んな想いがあったに違いありません。しかし、翌年2021年、そんな逆境をはねのけ、見事9秒95の日本記録を叩き出したのですから、まさにミスター逆境です。
腰の高さ調節が抜群に上手い
山縣選手の速さの秘訣は、腰の高さ調節の巧みさです。
スタート時は腰が低く、徐々に腰が高くなっていき、トップスピードの時には腰が最も高い位置にくるという流れは、基本的にはどの選手も同じですが、0.01秒を争う世界では、その微妙なテクニックの差がタイムにも表れます。山縣選手はこの点が非常に優れているんです。
スタート時はいかに水平方向の力を大きくできるかがポイントです。股関節の角度が同じでも腰を低くすることで上半身の前傾角度を浅くすることが可能です。そして、1歩目2歩目を出した時、腰が低い方が膝下と地面との角度が小さくなり、水平方向の力を大きくすることができるんです。
このスタート時の腰の低さは、スタートの瞬間、両膝の力をスッと抜くことで可能にしています。セットの際の山縣選手の腰の高さは、他の選手よりもやや高い位置にありますが、スタートの合図とともに腰が大きく下がります。これが山縣選手のテクニックです。
この辺りにも注目して、これからの男子100mを見てみてください!選手を知ると観戦がより一層楽しくなります!今後の男子100mの日本勢に期待です!