
2017年に日本人で初めて10秒の壁を破り、その後も日本短距離界のトップに君臨し続ける、桐生祥秀選手。先日行われた日本選手権では5年ぶりに優勝を飾り、涙を見せたインタビューが話題となりました。
今回は、そんな桐生選手の「スタート動作」に焦点をあて解説します。
スタート直後 効率のよい重心移動
スタートの瞬間は、静止状態から瞬時に重心を前方へ送り出すための技術が試されます。
ここでは、2つの力が主に働いており、1つは地面に倒れ込む引力、もう1つはスタブロをキックした反作用によって起こる体が起こされる力です。重心を効率よく前へ移動させるためには、この正反対の2つの力を釣り合わせることが鍵となります。
桐生選手の場合、スタート直後にお尻の位置が急激に下がり、地面に倒れ込むような動作が特徴的です。そして、この倒れこむ力と釣り合うくらいに、両足で強くスタブロを押して、体を鋭く起こしています。上体が地面と水平になるくらいまで、両脚でスタブロを押しているようです。
桐生選手の「速さ」は、倒れ込める動作を可能にしている1歩目の強さから始まります。
すね・足首の角度
接地時のすねの角度にも注目です。
すねの角度が垂直に近くなると、急激に上体が起き上がってしまうため、前傾姿勢をキープするうえで、すねの角度は重要です。映像で見ると、桐生選手のすねの角度は5歩目まではほぼ同じ角度で保たれています。
また、足首の角度も5歩目まではほぼ同じ角度でキープされており、足首を固定することで「伸張反射」をうまく使うことができます。
スタート直後の一次加速では、瞬時に大きな力が必要となるため、体の末端ではなく、大きなパワーを生み出せる体幹・股関節が動力源となります。体幹・股関節をしっかり使えているからこそ、このすねと足首の角度の固定が可能になるのです。
桐生選手のスタートフォームには、身体の各部位が連動した高度な技術が詰まっています。ブロッククリアランスから5歩目までの動作だけでも、多くの工夫と理論が存在し、それが爆発的な加速力を生んでいます。
そのまま取り入れることは難しいかもしれませんが、ぜひ参考にしてみてください。